次に、エクマンは6つの感情に関わる文章を用意し、それを通訳の人が現地の言葉で話して、その文章にふさわしい表情を6枚の写真の中から指差しで選んでもらいました。例えば、「彼のお母さんが死んだ、彼はとても悲しい」というような文章を聞いて、3枚提示された写真の中から、悲しみの表情を選べば正答とするわけです。その結果、喜びの顔の正答率は86~100%、怒りは82~87%、悲しみは69~87%、嫌悪は77%、驚きは65~71%、恐怖は48~87%となりました。さらに、感情を表した文章を聞いて、それにふさわしい表情をするように求めたところ、西洋人と似たような表情をすることも確かめました(図4-3)。

図4-3同書より 拡大画像表示

 これらの結果から、パプアニューギニアの部族の人々は、初めて見た西洋人の表情から正しく感情を推定でき、さらに、感情表現についても西洋人と似たような表情をすることが明らかとなったのです。エクマンが行ったフィールド調査により、喜び、悲しみ、怒り、驚き、嫌悪、恐怖という6つの表情は、全人類に普遍的であることが示され、現在でもこの考えが広く受け入れられています。私たちが、言葉が通じない異国の人とでも、一緒に笑いあったり、驚いたり、喧嘩したり、とさまざまなコミュニケーションがとれるのは、表情が人類共通の生得的基盤を持つおかげなのです。

書影『顔に取り憑かれた脳』(講談社現代新書)『顔に取り憑かれた脳』(講談社現代新書)
中野珠実 著