思春期はただでさえ他人の目を意識するようになり、自分と他人を比較し、自尊心が揺らぐ時期です。他人のことが気になるから、いつもスマホを見てしまいます。そして、大きな目をして、スタイル抜群な同世代の姿を見て、現実の自分に対してますます自信を失ってしまうようです。そこで、そのコンプレックスを埋めるために、自分の容姿を大きく盛った写真をアップするようになり、それを見た周りの子は、自信を失ってしまいます。まさに、大勢を巻き込んでの負のループなのです。

 総務省の調査でも、若者のSNS依存は深刻な問題となっており、SNSに依存している人ほど、自分の外見やふるまいが他者にどう見えているかを気にしており、社会的な自己意識が高い傾向があることがわかってきました。

 スマホの登場によって、私たちのコミュニケーションのスタイルは、言葉を交わすよりも、自分の写真を見せ合うことが中心となり、顔に取り憑かれてしまう傾向は、ますます高まっているのです。

アバターを変えるだけで
自己意識が劇的に変わる

 他人のきれいな写真と比べてしまうと確かに自分の容姿に自信が持てなくなるけれども、自分の容姿それ自体を自由自在に変えられるのであれば、その悩みはなくなるのかもしれません。そして、VR技術の発達により、それが現実になりつつあります。VRの世界では、自分の分身であるアバターの顔だけでなく性別や年齢、体形も選べるし、動物やロボットにも変身できてしまいます。そのとき、私たちの自己意識まで変わってしまうのでしょうか。

 2007年、それを調べたスタンフォード大学のニック・イーらのグループの研究が発表されました。仮想空間上のアバターの見た目が、そのユーザーのふるまいに影響を与えることを実験で明らかにしたのです。

 彼らは、魅力的なアバターを使っている場合は、他のユーザーとの距離が近くなり、さらに他者にオープンな態度を示すのではないか、と考えました。そこで、魅力的な顔と魅力的でない顔のアバターを作成し、32人の大学生が、そのアバターを使って異性のユーザーと交流しているときの、両者の物理的な距離や話の内容を調べたのです。