手を伸ばす男性写真はイメージです Photo:PIXTA

SNSで加工された顔写真を見て、自分の容姿と比較し自信が持てずに悩む若者が増加している。自分の容姿それ自体を自由自在に変えられるのであれば、その悩みはなくなるのかもしれない。そして、VR技術の発達により、それが現実になりつつある。本稿は、中野珠実『顔に取り憑かれた脳』(講談社現代新書)の一部を抜粋・編集したものです。

顔の加工がやめられない
SNSが招く負のループ

 1995年に登場したプリント倶楽部、略してプリクラは、一大ブームを巻き起こしました。目を大きく、顔を細くするなどの加工をしたデジタル写真がすぐにプリントされて出てくるため、女子高校生の間で人気となり、当時の渋谷のセンター街は、プリクラの機械がずらっと置かれていたものです。顔を大きく変えることを「盛る」と称し、盛りまくった顔のシールをお互いに交換し、携帯型のメモ帳に貼り付けることが、ある種のコミュニケーションとなっていました。

 そして、スマートフォンが普及すると、自分の顔を撮る行為はさらに進化しました。スマホさえあれば、いつでもどこでも撮影できるし、加工は簡単かついろいろできます。さらに、すぐに友達に送ることも、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)にあげることもできるのです。「百聞は一見にしかず」のことわざ通り、言葉よりも写真や映像でのコミュニケーションがソーシャルメディアの中心で、その中でも主役はもちろん、自分の顔です。もはや、ソーシャルメディアは、自分の顔をプロデュースする場と化したのです。

 でも、よい話ばかりではありません。若者のSNSの利用が増えれば増えるほど、問題も生まれています。加工が施された写真は、若者に深刻な心的ダメージを与えているのです。

 オランダの研究グループは、14~18歳の若い女性144人に、同世代の女性がSNSにあげた写真をたくさん見せました。そのうち、半分の女性には、元のままの写真を見せたのですが、残り半分の女性には、顔はより美しく、体はより細く見えるように修整を加えた写真を見せたのです。すると、修整を加えた写真ばかり見たグループは、自分の容姿に対する満足度が下がってしまったのです。他人の目が気になるタイプの女性ほど、この満足度の低下は著しいものでした。一方、オリジナルの写真を見たグループは、自分の容姿に対する満足度にまったく変化がありませんでした。