その結果、魅力的な顔の場合、相手との距離の平均は0.98メートルだったのに対して、魅力的でない顔の場合、相手との距離は1.74メートルでした。また、魅力的な顔の条件では、自分に関して平均して7.2個の情報を相手に話したのに対して、魅力的でない顔の条件では、その数が5.4個でした。つまり、自分のアバターが魅力的な顔をしているときは、異性の相手に接近し、自己を開示し、親和的な行動をするようになると考えられるのです。

 次に研究者たちは、アバターの体形が仮想空間でのユーザーのふるまいに及ぼす影響を調べることにしました。これまでの研究から、背が高い人は、自分に自信があり、異性から人気があり、さらにリーダーになる傾向が強いことがわかっています。そこで、アバターの背が高い場合、より自信に満ちた態度で、よりアグレッシブに他者と交渉するのではないか、と予想をたてたのです。それを検証するために彼らは最後通牒ゲームと呼ばれる経済ゲームを使いました(図5-1)。

図5-1同書より 拡大画像表示

 このゲームは、提案者と承認者のペアで行う取引で、提案者が100ドルをどう山分けするかを提示します(例えば、提案者は75ドル、承認者は25ドルというように)。それを承認者が承諾すれば、その分配の提案通りにお金がもらえます。一方、承認者が却下すると、2人とも何ももらえません。そのため、提案者は承認者が受け入れてくれる範囲で、できるだけ自分が得するような分配の案を考えるし、承認者は拒絶すると自分も損するので、どの程度なら不公平さを妥協できるかを考えるのです。研究者らは、アバターの背が高い場合だと、ユーザーの自信が増して、より不公平な分配(自分が得する分配)の提案をするのではないか、と予測しました。

背が高いアバターを使うだけで
交渉の態度が独善的になった

 実験の結果、アバターの背が高い条件では、60ドル(自分)と40ドル(相手)の提案をしたのに対し、背が低い条件では、52ドル(自分)と48ドル(相手)の提案をしました。予想通り、アバターの背が高いときは、自分が有利な強気の提案をするのです。

 今度は逆に、相手が分配者となり、75ドル(相手)-25ドル(自分)の提案をしてきたときに、それを受け入れるか、拒否するかを調べました。