3月にも日本銀行がマイナス金利政策を解除するとの見方が浮上している。政策判断を左右するのはサービス価格の動向だが、統計局の統計を再推計してみると、インフレが減速している可能性も見えてきた。マイナス金利解除は時期尚早の可能性もある。(東京大学大学院経済学研究科教授 渡辺 努)
異常に高い価格上昇率への違和感
日本銀行がマイナス金利政策を終わらせる日が近いと市場ではうわさされている。
その背景にあるのはもちろん賃金と物価の好循環だ。物価がこれまでの0%ではなく、安定的に2%程度で上昇する一方、賃金もそれに見合った率で安定的に毎年上昇する。そうした姿がようやく視野に入ってきたということだ。
日銀は、足元で進む物価上昇のメカニズムとして、「第1の力」と「第2の力」という説明をしている。
第1の力とは、輸入物価の上昇という外的な要因で国内価格が上がるという意味だ。
これに対して第2の力は、第1の力で上昇した国内物価が賃金の上昇を招き、それがさらに国内の価格へと転嫁されることを意味する。
第2の力がうまく働いているか否かは、サービス価格を見れば分かる。サービス産業はコストに占める人件費の割合が高いからだ。
サービス価格の動向に日銀や市場の関心が集まる中で、3月5日に東京都区部の2月のCPI(消費者物価指数)が公表された。
サービス価格は全般に高い伸びを示したが、特に目立ったのは教養娯楽サービスで、前年比11.6%に達した。
教養娯楽サービスとは、旅行や映画・演劇観賞、スポーツ観戦、カラオケなど幅広い娯楽をカバーしている。私たちの生活そのものともいえる領域だ。
それが10%を超える伸びになっているのは、生活者としてはやや心配だ。一方、日銀が注目する第2の力は力強いということになるのだろう。
では、教養娯楽サービスがここまで上昇しているのはなぜなのか。
中身を詳しく見ると、「外国パック旅行費」が前年比70.3%と突出して高い。消費者物価は、サービスだけでなくモノも含めて全部で約600の品目から構成されているが、実は外国パック旅行の伸び率が第1位だ。
確かに、燃料価格の上昇や円安などさまざまな要因が重なって旅行代金は随分と高くなった。おそらく多くの国民の実感とも合致するだろう。
では実際のデータはどうなっているのか。グラフを確認すると、瞬時に違和感を覚える統計であることが分かる。