価格高騰はいつ起きたのか
統計局が24年1月に発表した解決策は驚くほど単純だ。繰り返すが、統計局は23年12月までは「前年と同じ」と仮定した。その上で、24年1月に価格が一気に調整され、それまでの約1.6倍になったとした(緑線を参照)。
しかし先述の通り、値上げは年明けに急に始まったわけではないし、多くの人の実感とも合わない。
では、海外旅行の価格が上がった時期をどう推計すればよいのか。IATA(国際航空運送協会)は、OECD(経済協力開発機構)諸国における航空運賃がパンデミック中、どのように推移したかを公表している(“Airfares recover amid soaring jet fuel costs and inflation.” 21 April 2023)。
この資料によれば、運賃の前年比は20年2月にマイナスに転じ、同年8月には前年比約40%の大幅下落となった。その後、前年比のマイナス幅は緩やかに縮まり、22年5月にはほぼゼロと、下げ止まった。その後は前年比がプラスとなり、上昇に転じた。
日本の外国パック旅行の代金は、このデータと完全に同じではないだろうが、大勢は同じとみてよいだろう。図1の赤線はその前提の下で筆者が推計した価格だ。注目点である価格高騰のタイミングは22年夏から23年春にかけてとなっている。
以下では、価格収集がストップしていた期間をこの赤線の推計値で埋めたデータ(図1の黒線→赤線→青線をたどる)を使って、議論を進めていく。
ここまでで、外国パック旅行の価格が推計できた。しかし、まだ別の問題がある。
そもそもパンデミック中は、ほとんど誰も海外旅行に行っていない。であれば、海外旅行の価格は私たちの生計費に何の影響もなかったはずだ。
消費者物価とは、物価が上がって生活が苦しくなっているか否かを調べる統計だ。その性質からも、少なくともパンデミック下では生活に関係のない、海外旅行の価格を気にしなくてもよいのではないだろうか。
この直観を反映させるために、まずは外国パック旅行への支出金額の推移を見ていこう。