旅行していない期間の物価推計
図2は典型的な家計が外国パック旅行に幾らのお金を費やしたかを示している。
20年4月以降はほぼゼロであり、その傾向が22年末まで続いている。つまり、この間は確かに皆が旅行を控えていた。旅行が増え始めたのは23年1月以降であり、その後は増え続けているものの、水準としてはパンデミック前の約半分に過ぎない。
消費者物価は、約600の品目の価格の上昇・下落率を平均したものだ。ただし単純な平均ではなく、どの品目も均等ではない。消費金額の大きい品目には大きなウエート、そうでない品目には小さなウエートをつけながら、平均する。
図2に示したように、外国パック旅行はパンデミック中、金額が激減したのだから、このウエートもそれに応じて低くしなければならない。そうして初めて、生活に関係のない海外旅行は、その価格もまた関係ないだろうという、先ほどの直観を統計に反映させることができる。
ただし、消費者物価統計はウエートが時々刻々と変動するようには作られていない。過去の特定の年における各品目の消費金額に基づきウエートをいったん計算すると、しばらくの間はそれを使い続けるという方法を採っている。ウエートを時々刻々調整するのは実務的に煩雑だからだ。
通常の時期であれば、ウエートが大きく変動することはまずないので、ウエートを頻繁に変えなくても支障はない。
しかし図2で示したような大きな変動が起きた場合は別だ。消費金額の変化に応じて時々刻々ウエートを変更しなければ、計算されるインフレ率が消費の実態と合わなくなってしまう。
ところが、統計局はパンデミック中も、その後もウエートを変更していない。外国パック旅行に代表されるように、パンデミック中、そしてその後にウエートの大きく変化した品目が誤差を生み出している可能性がある。
では、ウエートを時々刻々変化させると結果はどれほど変わるのか、実験してみよう。