その① 「プロ目線」で最短の家庭料理
まず目につくのが、本書では作り方工程が3ステップに簡略化されていること。手間いらずの家庭料理を研究する料理家の方の本では珍しいことではないのですが、シェフのレシピ本で3ステップはあまり見ることがありません。
プロの料理人にとっては面倒を面倒と思わずおいしく作るために当たり前の手順も、家庭で日々の料理としてやるには躊躇してしまうことはたくさんあります。
しかし本書では絶対にはずしたくない、「ここ、大事」を落合シェフがもれなく伝えてくれているので迷わずに済みます。これだけで料理のハードルが下がるのが嬉しい点。
例えば巻頭の「僕の人生ベスト 落合式イタリアンの原点!」の中でも、トマトジュースを煮詰めて作る「思い出の野菜パスタ」はインパクト大です。
これを見ておわかりの通り、時短レシピを徹底追求するものではなく、一定の美味しさを維持した上で、時間をかけないソースなのです。巷で流行の、パスタを折って入れてゆでながらソースも一緒に作ってしまう「ワンパンパスタ」は出てこないし、市販のパスタソースを使うこともありません。
できるだけ面倒を感じさせずに、でも極上の一皿をゴールとしたノウハウがまとまっています。
その② 身近な食材を余すところなく使う
レストランの料理は、得てして塩分もカロリーもオーバーしがち。また、家庭では買った食材は余すことなく使いきりたいもの。そこで本書では、落合シェフ自身が自宅で自炊して気付いた知恵の提案があります。それがこちら。
◆生クリーム→牛乳+〇〇
◆卵黄→全卵を使いきる
◆日本の定番野菜・肉を利用→これじゃなきゃ、がない
◆鶏肉、薄切り・こま切れ肉、ベーコンで手早く
◆うまみの素になるバターやパルミジャーノチーズはケチらない
随所に出てくる工夫はただの思いつきではなく、60年も第一線で走ってこられたシェフならでは。もちをとろみに使う発想は、イタリア料理にはありません。
その一方で、イタリア料理らしさを決める食材は決してはずさないのも落合シェフ。
それがオリーブオイル、パルミジャーノチーズ、赤ワインビネガー、ローズマリー・ローリエなどのハーブ類。これらを使うことで、イタリア料理としての味が決まる、と巻頭から呼びかけます。
とくにハーブ類は、鉢植えを買って自宅で育てることを推奨されていて、すぐに傷む、植えても1年草で恒常的に使えないバジルは、「ひとりぶんジェノベーゼ」や、「ボリート」のサルサヴェルデといったソース以外はほとんど出てこないのです。使うとなったら1パックを使いきる。その思いきりに救われます。
その③ 膨大な経験に基づいた調理のコツ
本書の3つめの特徴が、動作のタイミングと火入れの考え方が明確に提示されていること。
例えば、にんにくを使う時はオリーブオイルに入れてから火にかけると香りがしっかりオイルに移るとか、パスタにはしっかり塩で味をつけるとか、ソースが8割できてからパスタをゆで始める、ソースは火をとめてパスタとあえる、肉は余熱で火を通す一方、強火でガーッと焼くなどなど、その素材を使ったレシピに最適なコツがてんこ盛り。
そうした料理としての「筋」を通すことにより、落合シェフ流の簡単でしみじみうまくて毎日食べても飽きないイタリア料理ができあがるというわけです。