厨房で、自宅で、イタリアで、日本で。何千回、何万回と料理を作り続けてきたレジェンドシェフ・落合務。料理人人生60年を通して、ギリギリまで突き詰めた家庭料理はどんなものなのか? 本当の「タイパ料理」を、落合氏の9年ぶりの著書『プロの味が最速でつくれる! 落合式イタリアン』知ることができる。
TVやネットでも続々紹介され、大きな話題となっている。そこで本稿では、2000冊以上の料理本を収集し、料理本専門書評サイトCOOKBOOK-LAB主宰である綛谷久美(かせや・くみ)氏に、今の時代に受け入れられている料理本のポイントを解説してもらう。

プロが本気で「家庭料理」に向き合ったらどうなる…? 手早く無駄のないノウハウの集大成Photo: Adobe Stock

「この本で作れなきゃ、お手上げだ!」

「予約のとれないイタリアン」という最強のキャッチコピー付きで紹介されるイタリア料理レストランといえば、「ラ・ベットラ・ダ・オチアイ」(東京・東銀座)。これに異論を挟む人はいないと思います。

 オーナーの落合務さんは1980年代から始まった“イタ飯”ブームの先駆的存在であり、数々の日伊受賞歴をお持ちのすごい方。著書も多くて、共著も合わせると30冊近く出版されています。

 なかでも2014年刊行の『「ラ・ベットラ」落合務のパーフェクトレシピ』(講談社)は、巻頭から落合シェフの教えがどっさり詰まっている名著。全レシピ、調理工程がずらりと並び、懇切丁寧に説明されている。

 本格的にイタリア料理作りを覚えたい、とくにパスタが好きでちゃんと作りたい人の基本の書であり、バイブルだと思います。私も何度も読んで、シェフのことばを脳内に響かせながらパスタ作りを覚えたクチです。

 それだから、本書『プロの味が最速でつくれる! 落合式イタリアン』の刊行を伝えるリリースを読み、すぐ「買う」と決めていました。

 落合シェフが新刊では何をどう言うのだろう? ワクワクしながら発売日当日に書店に行ってみれば、平台に積み上げられた真っ赤な装丁の本が燦然と輝いていました。

 帯には「ギリギリまで省略」「この本で作れなきゃ、お手上げだ!」「料理人人生60年!!」といったコピーがぎっしり、ぐいぐいと迫ってきます。いちおう私も出版業界にいる人間なので、セールスコピーの圧には負けないつもりですが、ここまで言われたら否応なしに期待がふくらみます。

 どれどれと開いてみれば、記憶の中にある「パーフェクトレシピ」が進化している様子が伺えます。「これは!」という点がいくつも見つかり、ワクワクしながら読み進めました。

 そうして見えてきた『落合式イタリアン』。すごいですよ。他のレシピ本にあまりない工夫がたっぷり詰まっているのです。書き出すと止まらないので、「レシピ」に関する着目点を3つ挙げてみました。