日産自動車に下請法違反を勧告した意味

 中小企業でも、昨年と比較すると賃上げに取り組む企業が増えた。日本商工会議所が中小企業6013社を対象に実施した「中小企業の人手不足、賃金・最低賃金に関する調査」(2月14日公表)において、24年度に「賃上げを実施予定」の企業は、昨年度から3.1ポイント増加の61.3%だった。また、賃上げ率の見通しについては「3%以上」とする企業が36.6%、「5%以上」とする企業が10.0%あった。

 政府は経済界に対して、中小企業が適正な収益を確保し賃上げを継続できる環境を整備するよう要請を強めている。その象徴的な出来事として3月7日、公正取引委員会は日産自動車に対して、「割戻金」の名目で一部下請け業者への支払いを減額していたことが下請法違反に当たると勧告した。今季、春闘の大企業の回答が集中するよりも前に、勧告したことは重要な意味を持つ。

 自動車産業は、下請け、孫請けとも呼ばれる多数の取引先とサプライチェーンを構築するわが国経済のけん引役である。一方、これまで完成車メーカーや主要部品メーカーが、下請けの中小企業にコスト低減を強化するよう要請してきたことから、中小企業は製品の値上げが難しくなり、それが賃上げの阻害要因ともなっていた。

 公正取引委員会は、ビッグモーター(中古車販売)やコストコホールセールジャパン(流通)、ダイオーロジスティクス(物流)、王子ネピア(衛生用紙)といった企業にも下請法違反の勧告を行っている。さまざまな業界で従来の商慣行を見直すことで、中小企業にも持続的な賃上げを実現してほしいというメッセージと考えられる。

 また、政府は非正規雇用者の賃金を引き上げるよう、中小企業にも要請している。中小企業向けに「キャリアアップ助成金」を支給し、非正規雇用者の正社員化、処遇の強化を求めたほか、非正規雇用者に賞与や退職金を支払えるよう支援も強化した。加えて、中小企業庁は中小企業の成長と賃上げの両方を目指して、中小企業向け「賃上げ促進税制」を実施してもいる。

 こうした政府の後押しもあり、大幅な賃上げを求める非正規雇用者も増えた。連合が掲げる賃上げ方針(5%以上)を上回る賃上げを求める合同労働組合もある。