日本製鉄などで労組の要求を上回る賃上げ

 2024年の春闘での賃上げは、昨年の実績を上回る可能性が高い。厚生労働省によると、23年の賃上げ(令和5年 民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況)は3.60%増だった。今年の賃上げ予想は、1月15日時点の日本経済研究センターの公表(ESPフォーキャスト1月調査)によると、春闘での賃上げは3.85%程度との予想だった。

 最新の連合の集計はそれを上回った。経済の専門家の予想以上に、大企業の賃上げ重視姿勢は強いといえる。背景には、人手不足に加えて、経団連や政府が大幅な賃上げを呼びかけたことがある。競合他社と同等かそれを上回る賃上げによって、既存事業の運営に必要な人員数を確保しようとする企業が増えている。

 必要人員の確保のためには、従業員の生活の安心感を高めることが大切だ。足元のわが国の物価上昇率は、名目賃金の上昇を上回る状況が続いている。経営者が賃上げをためらうと、従業員はより高い給料の企業に移ってしまうだろう。従業員の満足感を高め、より長く務めてもらうためにも賃上げの重要性は高まった。

 専門性の高い人材獲得のためにも、賃上げは喫緊の課題だ。AI(人工知能)の急速な広がり、脱炭素などに対応するために、デジタル技術やプログラミング、財務などの専門人材を確保し、成長戦略を強化する必要性が高まっている。企業が職務内容を明確化し、能力と実績がある人を採用する「ジョブ型」の雇用も増えている。

 そうした背景から、日本製鉄など労働組合の要求を上回る賃上げを行う大企業も出ている。また、スズキや第一生命ホールディングス、YKK APなど初任給を10%以上引き上げる企業も出ている。わが国の経済状況は堅調とは言い難い点があるものの、企業の賃上げ重視の姿勢はより強くなっていることは確かだ。