物価上昇に追いつける賃上げが達成できるか
大企業主導でわが国の賃上げは進み、徐々に中小企業にもその機運が浸透し始めた。注目すべきは、今春、物価の上昇ペースと同じ、あるいはそれを上回る賃上げが経済全体として実現できるか否かだ。
わが国では食料や日用品などの価格上昇が顕著であり、家計の生活負担感が高まっている。生活に不安があると、個人消費は伸び悩む。
賃上げによって実質ベースでの収入が増えれば、多くの家計で生活の安心感は高まるだろう。そうなると旅行や外食などの余暇、子どもの教育、大人も学び直し(リスキリング)にお金を使う機運が高まるはずだ。
春闘で物価の上昇ペースと同じ、あるいはそれ以上の賃上げ実現は、消費拡大と景気回復の好循環実現にどうしても必要だ。国民生活にゆとりが生まれるとわが国の需要は回復し、それによってGDPの成長率が上昇する可能性が高まる。そのためにも、国内の雇用の約7割を支える中小企業の賃上げ強化は欠かせない。
地方でも変化は起きている。半導体分野での対日直接投資が増えていることだ。熊本県菊陽町ではファウンドリー世界最大手の台湾TSMCが大型工場を建設している。TSMCの対日進出を呼び水に、オランダのASMLなどもわが国に進出する。地方でもこうした有力企業に勤めることで、それまでよりも高い賃金を手にする人は増えるはずだ。また、そうした外資系企業が、高い技術を持った日本の中小企業との取引を開始・拡大することによって従業員の賃上げが可能になるケースもあるだろう。
変化を恐れずにチャンスを生かして、規模の大小を問わず企業が収益力を高め、物価の上昇を上回る賃上げを持続的に実現する――。これが、わが国経済の本格的な回復に欠かせない要件だ。賃上げを契機に個人消費が伸び、企業の成長志向も高まって景気が回復する。こうした好循環を今こそ実現すべきだ。