中国で「EV墓場」が社会問題
欧米の自動車大手もEVで苦戦

 2023年の世界のEV販売台数は前年に比べて30%増えたものの、22年の前年比60%増に比べると、増加ペースは鈍化した。そして24年のEV販売台数は、23年と同程度か下回るとの予想もある。EV市場の成長の鈍化は、米テスラの決算でも確認できる。

 1月、テスラのイーロン・マスクCEOは、24年の売上高の増加ペースが鈍化するとの見通しを示した。これにより同社の株価は下落し、投資判断を引き下げたアナリストもいる。新モデルの「サイバートラック」の生産が遅れていることに加え、電気自動車大手の中国BYDによる大幅な値下げ攻勢により、競争が一段と激化しているからだ。

 中国では、不動産バブルが崩壊して個人消費の低迷が深刻になっている。地方政府の財政難もあり、EV販売への補助金が終了あるいは減少した。中国においてEVは供給過剰に陥り、経営破綻する新興EVメーカーも出ている。「1台買えば、もう1台が無料」といった信じられないセールを行う企業も現れたが、効果はほとんど出なかったようだ。

 中国では行き場を失い放置される大量のEVの様子が、「EV墓場」として報道されてもいる。また、大雪時にバッテリーが消耗したことで立ち往生するEVが増えているともいう。春節(中華圏の旧正月)休暇で人々が帰省や旅行に出かけた際は、EV充電待ちの渋滞も発生した。こうした事例が広がり、消費者がEVを敬遠することに拍車をかけた。2月、中国のEV販売台数は前年同月比21.8%減の29万4000台に落ち込んだ。

 翻って欧州では、自動車大手がEV計画の失敗を認める事態となっている。トヨタと世界トップの座を競う独フォルクスワーゲンは、15年に起きたディーゼルエンジンの排ガス不正問題を契機に、EVシフトを強化した。しかし、バッテリー製造コストの増加、ソフトウエアの開発力不足、充電インフラ整備の遅れなど課題は多い。同社CEO自ら「欧州EV市場は思ったほど拡大していない」との見解を示してもいる。

 同様に独メルセデスは、「30年にEV専業メーカーになる」という目標を撤回し、新型エンジンの開発を進めている。また、仏ルノーは、市場環境が適さないとしてEV新会社Ampereの新規株式公開(IPO)を中止した。

 米国でも欧州と似たような理由から、ゼネラル・モーターズ(GM)やフォードのEV戦略が計画よりも遅れている。あるいは、レンタカー大手のハーツがEVの値崩れに直面し、経営トップが更迭されるという事例も出ている。