本人たちが嫌がることを平然とやってのけ、下世話なうわさ話を垂れ流し、ときにはその本人たちに不幸をももたらす――もし皆さんの周りにそういう友人がいたとして、皆さんは関係を続けたいと思うだろうか。

 かくして、大谷選手の奥様に関する記事は、閲覧数は伸びても、コメントは袋叩きとなる。他人のことを下世話に書き散らかすことで、企業は「顧客」を得て、「友人」を失っているのだ。

「人間志向」のマーケティングとは
“良き友人”と付き合い、投資する世の中へ

 コトラーは、こうした個人の人格を尊重する時代の変化を機敏に読み取り、「顧客志向から人間志向へ」として、企業活動は次なる時代、マーケティング3.0に入ったと主張した。

 では、このマーケティング3.0の時代に、企業は、メディアは、どうあるべきなのか。

 何ら難しいことはない。向き合っているのは、顧客などではなく人だというなら、企業はその友人たちに対して、誠実にあればよい。

 コミュニティーの一員として存在することを認めてもらえるよう、尊敬してもらえるような事業活動・マーケティングを行っていけばよい。

 そうした会社とならば、人々は引き続き、関係を取り結んでいくだろう。その企業で働きたいとも思ってもらえるだろうし、そうした会社の存続・発展を願えば、投資・融資にも前向きになれるだろう。このことは近年、統計的にも実証されるようにもなってきている。

 例えば、米パタゴニアは、創業者イヴォン・シュイナード氏自身が世界的なアルピニストで、創業の動機は自身の経験からくるものだった。

 アルピニストたちこそが、自分たちの愛する山を汚している。その原因の一つは、粗悪な登山道具にある。命にかかわるチャレンジをしているのだから、壊れたり役立たなかったりした道具を持ち続けるわけにはいかず、山に棄てていくのだ。

 それに心を痛めたシュイナード氏は、命を預けるに足る、信頼のおける登山道具の製造販売に乗り出した。

 パタゴニアの売り上げの一部、従業員の業務時間の一部は、環境保全に充てられている。そうした姿勢に共感して、顧客は長期的な関係を取り結び、よき働き手も集まってくる。

 他人の嫌がることをやり、下世話なゴシップばかり話す友人を、あなたは受け入れられるか。そう問えば、メディアが取るべき道は、おのずと見えてくるのではないだろうか。