「こうした症状は社会不安障害の一種です。『電話恐怖症』とひとくちにいっても、友達や家族とは電話できるけど仕事関係は難しいという人もいれば、メールなどの文字のやりとりは問題ないが着信だけが苦手な人、重症化して携帯電話そのものが目に入っただけ苦しくなる人など、程度は人それぞれ。体に出る症状も、極度の緊張感、涙や吐き気がとまらなくなる、幻聴、腹痛、動悸が起きるなど、人によって異なります」

 とはいえ、電話恐怖症は何も特別な人だけがなる症状というわけではない。ふだんから電話を使用する人でも、突然こうした症状に陥る可能性は十分にあるという。

「多くの場合、原因となるのは、対人関係で過度な緊張感が走った経験です。たとえば電話越しに上司から怒鳴られた経験があると、その恐怖が脳内にいつまでも残り、『きっとまた電話が鳴ったら上司からだろうし、仕事のミスを怒られるに違いない』と思いこんでしまう。その状態が何時間も継続すると、現実との違いがつかなくなり、実際は着信音が鳴ってもいないのに、『いま電話鳴った気がする……』と不安感が常に継続してしまいます」

 どれだけ緊張する相手と電話で話しても、その場を過ぎれば緊張から解放される人は多いだろう。だが、不安障害まで達している人の場合、電話後に「さっきの会話で変な言葉を使わかなったかな……」などといつまでも引きずってしまうそうだ。

 加えて、不安や恐怖といった感情は、自分の意識下でコントロールしづらい側面もあるという。

「人は過度なストレスがかかると、脳内の『扁桃体(へんとうたい)』という感情の源泉となる部位から不安や恐怖といった感情が湧き上がってきます。ここで発生した感情は、通常なら大脳新皮質の前頭前野と呼ばれる部位によってコントロールされますが、あまりに脳が疲弊していたり、強い感情が噴き出したりすると、思考と感情の統合が図れなくなって、心と体もバラバラになる。結果、理性も働かなくなって感情があふれ出し、『笑っているのに涙が出る』といった自分でもよくわからない反応が出てしまうんです」

 このメカニズムにより、電話恐怖症の人は電話をとろうという意思はあっても、なぜか体がこわばって動けない状態になる場合もある。あるいは、電話に出てしまえば自分では制御できないほどの動悸が起きてしまうため、相手に不信感を与えてしまうことを恐れて電話をとれなくなるケースもあるそうだ。