織田信長の「天下布武」が
企業のキャッチコピーとして優秀な理由
例えば、信長が1567年ごろから旗印として掲げた「天下布武」という言葉がある。
天下布武は「天下に武を布(し)く」と読めることから、「天下を武力で平定する」という意味を持つとされる。信長は印章(当時の「はんこ」)などでもこの言葉を使い、手紙などに捺印していたと言われている。
驚くべきなのは、この天下布武はたった4文字であるにもかかわらず、パッと見ただけで「信長がどんな人物であり、何を成し遂げたいのか」がすぐに伝わることだ。
現代人のわれわれから見ても、「オレの武力で日本を一つにするんだ!」という強烈な野心をありありと感じる。信長が率いた家臣や兵士たちにとっても、「自分たちが目指すべきゴール」が一目でわかったはずだ。話し合いや交渉によって、穏便に天下統一を目指すのではない。あくまで「武力」で天下を平定するのである。
リーダーのビジョンが明確であれば、部下たちは自らの役割を自覚し、パフォーマンスを発揮しやすくなる。信長がさまざまな合戦で勝利を収め、他大名たちを従えながら天下統一の一歩手前まで躍進できたのは、この天下布武という言葉で組織力を向上させたからではないだろうか。
一方で、戦国武将の旗印といえば、武田信玄が軍旗に掲げたとされる「風林火山」も有名だ。
だが本郷教授は、「『風林火山』もそこそこ立派なことが書いてあるけれど、それよりも何よりも、『天下布武』は誰でも分かるでしょう」と言い切る。
確かに風林火山は、「孫子」の句を引用して進軍の理想的な在り方を描いているものの、「リーダーのビジョン」までは言い表していない。部下の立場から見ても、「疾(はや)きこと風の如く」といった内容を実践した先に、どんなゴールが待っているのかまでは分からない。
その意味でも、天下布武の四文字がどれだけ優れた言葉なのかが理解できるだろう。
現代のビジネス界においても「Make it possible with Canon(キヤノン)」「Inspire the Next(日立製作所)」「お、ねだん以上。(ニトリホールディングス)」など、企業のビジョンを端的に言い表したキャッチコピーは数多くあるが、天下布武もこれに通じていると言える。