信長の「天下布武」に通じる
標語を掲げた経営者とは?
入山教授によると、天下布武という標語は、経営学における「センスメイキング理論」の観点からも高評価できるという。
「センスメイキング」とは、日本語で「腹落ち(納得)」を指す。企業を成長させるためには、経営トップが組織のメンバーや外部のステークホルダー(企業が影響を与える利害関係者)に、会社の存在意義や方向性を「腹落ち」させなければならない。
これらについて「腹落ち」しなければ、従業員は現場で不測の事態が起きたときに正しい判断ができない。会社の方針に納得していないメンバーは「高いパフォーマンスを発揮しよう」とも思わないはずだ。ましてや投資家たちも「この会社にお金を出そう」とは思わないだろう。
そのためにも、経営トップは「われわれはこういう世界を目指すんだ」と、端的な言葉でビジョンを言い表す必要がある。そうした「周囲への意味付け・動機付け」のプロセスを突き詰めていくのが「センスメイキング理論」なのだ。
その成功例として、入山教授が挙げたのがソニー(現ソニーグループ)である。
ソニーは2000年代に入ってから、当時の主力だった薄型テレビ事業が低迷し、2012年3月期の連結決算で約4567億円の最終赤字を計上した。しかし、そこから収益性を大きく改善し、21年3月期には純利益が過去最高の1兆円を突破するなど、見事なV字回復を果たした。
その立役者となったのが、12~18年に社長を務めた平井一夫氏だ。平井氏はソニーを率いていた頃、社内外のスピーチなどで、何度も「感動」という言葉を繰り返した。「ソニーは感動の会社なんだ」「感動を生むんだ」と――。
海外向けのイベントでも、平井氏は「感動」を「emotional」「impressed」などと英訳するのではなく、あえて「KANDO」という言葉を使い続けた。