日本企業あるある、「公表をしぶる」4つの理由

 いろいろなご意見があるだろうが、実際にこのような「健康被害」を出した企業の危機管理をサポートした経験から言わせていただくと、この原因は経営陣や部門責任者の誤解によるところが大きい。

 それは「事実確認や原因究明をしっかりとすることこそが、危機管理である」という誤解だ。

 危機管理において、事実確認や原因究明は重要だ。しかし、そこに執着するあまり、事実確認や原因究明ができないと一歩も動けず、思考停止してしまうのである。

 相手がいることなので、あまり詳しい事は言えないが、筆者は過去に今回のような「自主回収」の決断をした企業の危機管理のサポートをいくつか経験したことがある。

 そこでは程度の違いはあるが、ほとんどの企業が問題を把握してから「調査」に時間を費やして「自主回収」を公表するまで1〜2カ月をかけている。

 つまり、今回の小林製薬のように「事実確認」や「原因究明」に執着するあまり、やるべきことを後回しにしてしまうのだ。これは日本企業の中では極めてベタな対応というか「危機管理あるある」と言っていい。

 このような日本企業の思考停止を後押しするのが、組織内の「同調圧力」だ。「一刻も早く公表すべき」という声が出ても、経営幹部や部門責任者らが握りつぶすのである。

 ある会社で筆者も社長に意見を求められたので、「被害拡大防止を優先するために早く公表すべきでは」と答えたら、品質部門の責任者やら、営業担当役員やらに「現実的ではない」「そんなことをしたら大混乱になる」と大目玉をくらった。

 では、なぜ彼らがそこまで公表をしぶるのか。

 ああでもないこうでもないと「公表できない理由」を並べてくるのだが、筆者が直接耳にした理由をまとめると、ざっとこんなところだ。

・原因をある程度特定しないと、取引先から「他の製品も危ないのでは?」という不安が拡大して会社の信用に関わる
・自治体や監督官庁に対して自主回収の背景を説明するのにも「まだわかりません」というのはあり得ない
・自主回収後、謝罪行脚をする現場の社員たちに「何もわかりません」と手ぶらで戦わせるわけにはいかない
・自主回収を公表する記者会見で社長が、「まだ何もわかりません」を繰り返したら社会が不安になって大炎上してしまう

 これを読んでいただければわかるように、「調査優先派」の基本的なスタンスとしては、急いで公表をしたところで、会社として何も説明できないので、かえってステークホルダー(利害関係者)を不安に陥れてパニックにさせてしまうというものだ。

 そうならないために、まずは事実確認や原因究明をしっかりとやる。そして、ある程度、情報が集まってきて、会社として説明ができる状況になったら満を持して公表する。消費者や取引先はもちろん、自治体や監督官庁の疑問や不安にも対応できるので、パニックも起こらない。こういう丁寧なプロセスを踏んだ情報発信こそが、「危機」をコントロールすることではないか、と彼らは考えている。