上皇陛下の子孫以外を
皇統から排除するリスク

 こうした論点を考える上で、忘れられがちなのは、小泉内閣のときから続く、いわゆる女系論者による次のような主張だ。

 上皇陛下の孫の女性3人である眞子さん(現在は除外されているが)、佳子さま、愛子さまのために女性宮家を設けたら、たとえ悠仁さまの後が続かなくとも、将来の皇位継承には問題がなくなるので、それ以外の皇位継承候補は用意する必要がない。

 しかし、眞子さんが皇室を離れられた今となっては、悠仁さまを含めたった3人の孫たちの子孫が、女系を含めたからといって、これから順調に増えていくかはわからない。数学的に見れば、上皇陛下の4人の孫が、百年先でも子孫を残している可能性は高いが、似た遺伝子を持つのだから、数学的な可能性よりもリスクは大きいと見た方がよい。なお、皇室に生まれた方で子どもがおられる方は半分ほどに過ぎないという現実もある。

 だとすれば、上皇陛下の子孫以外を皇位継承候補者から外すことは、皇統断絶のリスクを高める。

 イギリスのように5000人の王位継承権者がいなくても、数十人以上の継承権者がおり、必要に応じて補充できるようにすべきであり、上皇陛下の子孫以外を皇統から排除するという考え方は危険である。

 憲法学者には、皇籍離脱をした人やその子孫が皇族になるのは憲法違反であるという人もいる(内閣法制局は問題ないという見解)。だが、それは、現皇族の子孫で、生まれたときから皇位継承時点まで皇族であり続けている者が誰もいなくなったら、新たな天皇が即位することは憲法違反なので店じまいしなくてはならないということを意味する。いわば「隠れた天皇制廃止論」だ。

 野田元首相などがもくろむとおり、佳子さまと愛子さまの女性宮家を創設して、旧宮家などを皇位継承候補から完全排除したのちに、悠仁さまを含めた3人の子孫が100年後に絶えた時、あわてて「旧宮家というのが昔はありましたっけ」などと言っても遅いのである。

 私は女系も潜在候補とすることに反対ではないが、その場合については、明治天皇の女系子孫までを視野に入れるべきだと考えている。

 東久邇家は昭和天皇の長女の子孫であり、明治天皇の皇女は北白川、朝香、竹田、東久邇の各宮家に降嫁してそれぞれ子孫がいる。彼らは男系男子の皇統に属し、しかも、明治天皇や昭和天皇の女系子孫である。

 また、大正天皇の親王である三笠宮さまの子孫も、内親王が近衛家と裏千家に嫁がれ、孫世代の2人も結婚されている。

 いずれにせよ、女系を容認するときに佳子さまと愛子さまだけを対象として限定するのは理屈に合わない。皇族女子が結婚後に皇族身分を維持するという制度の対象から三笠宮家と高円宮家の3人を外す理由もないし、旧宮家のうち明治天皇や昭和天皇の女系子孫である人たちも大事にすべきであろう。

(評論家 八幡和郎)