純粋犬より体が強くなる?
雑種犬の「優性説」とは

 人間の目的意識がもたれるなかで、さまざまな犬種が生じ、純粋種が保たれてきました。飼育されている犬の9割近くは純粋犬とされ、その比率は高まる傾向にあります。その一方で、異なる犬種の両親から生まれた雑種犬もれっきとした犬であることはいうまでもありません。

 雑種犬、とりわけ純粋犬の父親と、別種の純粋犬の母親から生まれた雑種第一代ないしF1とよばれる世代については、純粋犬よりも体が強くなるなど生活力が高まる傾向にあります。これは「雑種強勢」、または「ヘテロシス」とよばれる特性で、犬にかぎらず、父と母の交配で次世代が生まれる動物、さらに植物にも認められる特性です。

 雑種強勢の確固たる理由は定まっていませんが、こういった理由ではないかという説はあります。

 一つは、「優性説」とよばれる説です。品種の異なる父親と母親が交配すると、その仔は父親・母親それぞれ由来の生存に有利な遺伝子も不利な遺伝子も入り混じって受け継ぐことになります。これは、品種のおなじ父親・母親から交配された場合よりも、生存に不利な遺伝子のみを受け継ぐ確率が低いことを指します。

 さらに、父親または母親のどちらかからは生存に不利な遺伝子を受け継ぐことも十分にありえますが、生存に不利な遺伝子と生存に有利な遺伝子がペアになったときは、生存に不利な遺伝子のほうのはたらきが覆い隠されます。

 このようなことで、異なる品種の父親・母親から生まれた仔のほうが、純粋種の父親・母親から生まれた仔よりも、生存に不利な遺伝子のはたらきが現れる確率は低いと考えられるのです。これが「優性説」です。

 もう一つ、「超優性説」とよばれる説もあります。父親・母親のどちらかから生存に有利な遺伝子を受け継ぐとともに、どちらかから不利な遺伝子を受け継いだ仔がいるとします。この仔は「生存に有利な遺伝子と不利な遺伝子のペア」のもち主です。この遺伝子のペアは、「生存に有利な遺伝子どうしのペア」や「生存に不利な遺伝子どうしのペア」のもち主よりも、そもそも体の強さなどにおいて優るといわれています。雑種のほうが「生存に有利な遺伝子と不利な遺伝子のペア」がたくさん起きやすいため、これが雑種強勢に結びついていると考えられます。これが「超優性説」です。