ミックス犬がよくないというのは精神的な話だけではありません。人間の手による交配のさせ方がまずいと、犬の体にも負担がかかります。犬の品種は、人間の手により多様となっており、小型犬から大型犬まで体長や体重も幅広くあります。人間による飼育環境と離れた、野生の世界で生きる犬たちのあいだで、5キログラムにも満たない小型犬と、数十キログラムもの体重のある大型犬が出会って交配をするというのは、あまりに不釣り合いで、犬たちの本来の行為として考えづらいことです。

書影『日本から犬がいなくなる日』(時事通信社)『日本から犬がいなくなる日』(時事通信社)
林 良博 著

 ところが、人間によって、そうした不釣り合いな交配が成り立ってしまいます。雌の小型犬と雄の大型犬が、人の手によって交配するとします。雌のおなかのなかで、胎児たちは、大型犬の遺伝子も受け継ぎ大きくなっていきます。人間の手による帝王切開のタイミングが間にあわないと、小さな体の母親の子宮のなかで成長するには不自然なくらい大きくなってしまい、母子ともに命が危ぶまれます。

 猫や牛などほかの飼育動物では、こうした交配相手の体格の差が問題になることはあまりありません。なぜなら、犬ほど体格の差がつかないからです。人間の手による行きすぎた交配や繁殖、また品種改変は、オーバーブリーディングとよばれます。不自然さをともなう妊娠や交配は、生命の健全性を脅かされるものであり、犬たちのためになりません。