雑種強勢は、雑種第一代(F1)で強く見られる特性ですが、第二代(F2)以降では多くの生きものでは、雑種強勢が弱まるか失われるかされます。作物用の植物や畜産用の動物では、収量を増やしたり病害耐性を強めたりする目的で、さかんに雑種第一代が使われています。

交配のさせ方がまずいと
母子共に命の危機に陥る

 犬についても異なる犬種の父親・母親が交配すれば、必然的に雑種の仔が生まれてくるわけで、とくに第一代は雑種強勢の特性をもつこととなります。その犬のことを考えれば、健康に長生きできる可能性は高まるので、決して悪いことではありません。また、役割の近い別種の犬どうしの交配を通して生まれた雑種が、雑種強勢の特性をもちながらその役割を発揮するといった事例もあります。たとえば、ゴールデン・レトリバーとラブラドール・レトリバーの交配を通して生まれた雑種犬が、盲導犬、聴導犬、介助犬、災害救助犬、麻薬探知犬、セラピー犬などとして活躍しています。

 その一方で、「犬種をミックスさせたらどんな犬が生まれるか見てみたい」とか、「かわいい犬が生まれてきたらラッキー」とか、人間の興味本位で誕生させられる雑種犬もいます。こうした犬は、人間から「ミックス犬」とよばれています。いま、「ミックス犬」でニュース検索をすると、非常に多くの記事が見つかります。ただ単に「雑種の犬」という表現を「ミックス犬」と表記している記事もありますが、「長毛でフワフワとした毛並み」などと、「ミックス犬であること」をバリューとしている記事も見られます。

 こうした人間の興味本位の考えによって雑種犬が生まれてくることについて、私は異を唱えざるをえません。コンピュータゲームの世界では、生命の交配のしくみをモデルにして、特徴だったキャラクターを運次第でつくり出せるようなしかけがあると聞きます。

 もし、ゲーム感覚の人間たちによって雑種犬が生まれているのだとしたら、これは犬にとって決して幸せなこととはいえません。人間の思い描いていたとおりの性格や特徴とは異なる犬が生まれてきたら、その犬は人間から愛されるでしょうか。「運次第」「かわいかったらラッキー」といった考えの人間から愛を受けるとは思えません。犬と人間が長い歳月のなかで築いてきた関係性の道理にも背きます。使命感をもって繁殖に取り組んでいるブリーダーのみなさんは、まずもってこうしたミックス犬をつくり出そうとはしません。