現代人は「慢性的で容赦ないストレス」に押しつぶされ、頭も肉体も、そしてメンタルも疲れ切っている。私たち人間が本来持つ「エネルギー」を取り戻すには、どうすればよいのだろうか? 本連載では、スタンフォード大学で人気講義を担当し、億万長者の投資家、シリコンバレーの起業家、アカデミー賞俳優のコンシェルジュドクターでもあるモリー・マルーフの著書『脳と身体を最適化せよ!──「明晰な頭脳」「疲れない肉体」「不老長寿」を実現する科学的健康法』から人生最高の時期を引き延ばし、生活の質を最大限に高め、幸福度を増し、慢性疾患の発症リスクを下げる「最新の健康法」を紹介する。
「グリコーゲンのシンク詰まり」を解消する
私はある同僚の代謝柔軟性向上の取り組みを手伝ったときのことを決して忘れない。
その方法は、軽いファスティング(断食)と、持続グルコースモニターやケトンメーターを使ったトラッキングによって、断続的なケトーシス状態〔糖の代わりに身体の脂肪を燃やす状態〕をつくることだった。
数週間経ったころ、その同僚はトライアスロンの大会に出場すると決めた。本格的にトレーニングをしたことなどないのに!
同僚の友人の一人は、エネルギー源として糖類主体のゼリー状食品を使った高炭水化物ダイエットをしながら、既に数週間トレーニングを続けていた。
しかし大会当日、最終的にその友人よりも先に同僚はゴールした。同僚の友人は、燃料の炭水化物を使い果たして「スタミナ切れ」を起こし、途中棄権したのだ。
一方、同僚は代謝柔軟性が非常に高かったため、グリコーゲンを使い果たしても脂肪を燃料として使えた。そのおかげで(トレーニングを受けずに)見事に完走を果たしたのだ。
代謝柔軟性をバイオハックする効果的な方法は、炭水化物の摂取量を意識して減らすことだ。
そもそも、人は総じて頻繁に食べすぎ、炭水化物を摂りすぎている。
代謝柔軟性の一般的な阻害要因は、単純に食べすぎることだ。
米国疾病対策センター(CDC)の「全国健康栄養調査」のデータ(2009~2014年)によれば、米国人は1日に約5回も食事をしている。
夕食と夕食後の間食(夜食)が最もよく食べる食事で、1日のエネルギー摂取量の45%を占めている。
夕食の平均開始時間は午後6時24分、平均終了時間は午後8時18分だ。
これによって、(運動しないと仮定すると)10~14時間分の燃料となるグリコーゲンが肝臓に蓄えられる。これだけ頻繁かつ遅い時間に食事をすると、身体は体内に蓄えたグリコーゲンを使い切れない。私はこれを「グリコーゲンのシンク詰まり」と呼んでいる。
食べない時間をより長くしてグリコーゲンのシンクをときどき空にすることは健康にきわめて有益だ。脂肪を燃料として燃やす代謝スイッチを入れ、身体の代謝柔軟性向上を後押しする。
夜間にグリコーゲンのシンクを空にしないと、睡眠中に脂肪燃焼に切り替わらない。体内に既に大量の貯蔵グリコーゲンがある場合、夕食や夜食から摂る燃料はどれも余分な脂肪として蓄えられてしまう。
食べない時間を長くする、つまりファスティング(断食)をするか、ケトジェニックダイエットのような超低炭水化物食にすることで、炭水化物の摂取量を減らすことができる。
炭水化物の摂取量を減らせば、燃料を切り替える練習の機会を身体に与えることができる。炭水化物を摂らなければ、身体はグルコースやグリコーゲンをすぐに使い果たし、別の燃料を探さざるをえないからだ。
一方、ほぼ必ず低炭水化物食を摂り、糖燃焼へのスムーズな切り替えに必要な代謝柔軟性を失ってしまった人は、炭水化物の摂取量を増やす期間を周期的に設けることで、身体に燃料を切り替える練習をさせることができる。
燃料供給の切り替えを身体に強いるほど、身体は切り替えがうまくなるのだ。
(本記事は『脳と身体を最適化せよ!──「明晰な頭脳」「疲れない肉体」「不老長寿」を実現する科学的健康法』から一部を抜粋・改変したものです。)