再開発で何が失われるのか
〈低下する緑の質と環境〉
今回の計画を、事業者(三井不動産、明治神宮、日本スポーツ振興センター〈JSC〉、伊藤忠商事)や都知事は、「緑の更新」という言葉を使います。しかし、古木は不要だと切り捨て、若木に取り換えればいいという考えは、短絡的で、サステナブルな時代の感覚に合っているとはいえません。
また「開発後に緑の割合は増える」と言いますが、それは葉の密度の濃い古木と、そうではない若木や芝生を均一に扱う面積比から割り出した、巧妙に錯覚をもたらす作為的な数字といえます。
再開発されれば、若木や屋上緑化や芝生などの面積を増やした分、あたかも緑化が進んだようにみえるでしょう。しかし、実際には樹齢を重ねた多くの大木が失われることにより、都市のヒートアイランド現象の軽減に貢献する緑の体積は減り、質的には低下してしまうのです。
また、改修して保存活用可能な建物を壊して建て替えるスクラップ・アンド・ビルドは、膨大な二酸化炭素を排出することになり、脱炭素化が進む世界の潮流に全く逆行しています。
〈問われる民主性〉
過剰な高度利用による高層ビルと巨大施設の建て替えという、無謀な再開発の犠牲になるのは、樹木だけではありません。
「スポーツクラスター(一帯をスポーツ施設の集積地にすること)」という目標を掲げておきながら、既存の軟式野球場、ゴルフ練習場、フットサルコート、バッティングセンターなど、一般市民が利用できる公益性の高い施設が全て廃止されるのは大きな矛盾です。
小池百合子都知事は、情報開示と民主的な都政を掲げていますが、このプロジェクトの進め方は真逆です。21年12月に開かれた住民説明会でも、一方的に計画内容の説明をした上で、計画はすでに決まったことであり、変更は認められないと告げるだけでした。十分な周知もないまま、22年2月の都市計画審議会において「議論は十分尽くされた」と採決を強行し可決。事業者ありき、再開発推進が前提の住民不在の決定でした。それから約2年がたった今も、情報の少なさ、住民や専門家の意見を顧みない決定プロセスは変わっていません。
そのため、景観・環境破壊を含め、風害、騒音、あるいは長期の工事期間中の災害時の避難対策の不備など、深刻な住民被害の問題を抱えたまま、非民主的な再開発は進んでいます。