D社労士は求人票の記載内容に関する資料をB部長に提示しながら簡単な説明をした。
「こうして見ると、求人票に載せる内容は雇用契約書とほぼ同じですね」
「求人票と労働条件通知書や雇用契約書は、同じような内容を記載しても利用目的が違うんです」
〇 求人票は、募集要項や労働条件等の記載があるが、不特定多数の人に対しての雇用契約の申込みの誘引(会社から労働者に対する広告)という位置づけになる。
〇 労働条件通知書は、就業場所・勤務時間・業務内容・賃金額や退職などの労働条件が記載されたもので、入社時までに使用者(企業や個人事業主)が労働者個人に書面で交付する義務がある。(労働基準法15条)
〇 雇用契約書は、雇用主(企業や個人事業主)と被雇用者(労働者)との間で、労働契約の内容を明らかにするために交わす書面である。記載内容は労働条件通知書とほぼ同じだが、雇用主と労働者で合意の上署名等を行い、それぞれ1通ずつ所持する。民法上は双方の合意があれば口頭での契約も成立するが、トラブル防止の目的で書面を作成し「労働条件通知書兼雇用契約書」として交付する企業が多い。
求人票の内容と実際の労働条件が違うと、法律違反になる?
「求人票の内容と実際の労働条件が違う場合は、Aさんの主張通り、法律違反になるんでしょうか?」
〇 求人票に載っている労働条件等は応募者全員を対象にした平均値であり、個々の条件等に対応はしていない。また、記載内容は確定条件ではなく、あくまでも「見込み条件」であるため、求人内容と実際の労働条件が同じとは限らないケースが多い。従って一般的には求人内容と実際の労働条件に差異があっても違法ではないとされる。
〇 ただし、求職者を集めるために募集開始時からわざと好条件を提示し、採用後は著しく不利な条件で働かせるなど、虚偽の広告・条件によって労働者を募集したと認められる場合、職業安定法違反(第5条4項など)になる。
〇 雇用主と労働者間で労働契約が成立した場合、求人票と条件が異なっていても、労働条件通知書や雇用契約書に記載された労働条件で勤務することになる。
〇 ただし、雇用主が労働条件通知書等を交付しなかった場合、求人票の記載内容がそのまま労働条件になると判断されるケースもある。
「甲社の場合、求人票には就業場所について『本社および各営業所』とあり、東京勤務とは特定されていません。従って『採用後著しく不利な条件で働かせる』には該当しないかと思われます」
「安心しました。ところで今回の場合、当社はどのように対応すればよかったのでしょうか?」