いろんなミックス粉のレシピを検索し、試行錯誤の末にでき上がったミックス粉のおかげでドーナツは飛躍的に大きくなり、炊場受刑者たちから絶賛されるようになった。

“味変”で飽きさせない工夫
労働意欲と心の健康の維持に効果大

 そうはいっても、毎日ドーナツでは飽きてしまう。そこで曜日によって、トッピングの内容で変化をもたせて日替わりドーナツにした。

 あるときはジャムを塗り、あるときは生地にきな粉を混ぜてはちみつをかけ、またあるときは粒あんをのせる……。ホントに彼らはあんこ好きだ。

 あんこも既製品を購入するのではなく、小豆から煮ることにした。鍋で煮ると、1人がつきっきりになり時間がかかる。そのため、放っておいてもできるように炊飯器を活用することにした。

 当所のような規模の小さい施設なら、家庭の主婦の知恵が役立つ。水に浸けて一晩置いた小豆を炊飯器に入れて、通常の炊飯モードでスイッチオン!煮上がったら軽くつぶし、砂糖を混ぜるだけ。安心安全に粒あんができ上がる。

「炊飯器であんこができるんですか?」と彼らは驚いていた。

 このあたりから、彼らの私に対する評価がグンと上がった気がする。炊飯器レシピなんて検索すればいくらでも出てくるが、彼らはもちろん知らない。

書影『めざせ!ムショラン三ツ星』(朝日新聞出版)『めざせ!ムショラン三ツ星』(朝日新聞出版)
黒栁桂子 著

 延長作業食は各施設によってさまざまだ。40円という予算から市販品では駄菓子程度のものしか購入できない。スナック菓子ならレギュラーサイズではなく、小袋になってしまう。

 それに比べて、うちのドーナツは40円でミスタードーナツなら2個分の大きさがあり、さらにトッピングがついてくるとなれば、腹もちもよく大満足のおやつになる。

 刑務所の夕食は午後5時には食べ終わってしまう。それから翌朝までの時間が長く、刑務所生活が浅いうちは空腹で寝られない者もいると聞く。しかし、このドーナツがあれば、腹もちもよく翌朝までぐっすり眠れるようだ。

 一般的に高カロリーな菓子に分類されるドーナツは、どちらかというと健康的とはいえない。だが、ここ刑務所では労働へのモチベーションと心の健康の維持にひと役買ってくれている。