東 理工系の研究者は政治的正しさとは違うところで能力が測られていますから、ヘイト発言をするIT系の人がいてもそれだけでキャンセルされるわけではない。いいか悪いかはともかく、いちおうそうなっている。でも人文系は間違いなくキャンセルされる。政治的な正しさから逃れられないわけです。

茂木 養老先生が政治性とは関係なくいられるのは、解剖学だからか。とても良い学問の選択をされましたね。

養老 僕の先生だった細川宏先生という大秀才は、医学の中でいちばん確実な学問はなにかと考えて、それが解剖学だという結論を得たから解剖学に進んだと言っていましたね。

コロナも精神疾患も
政治と経済から切り離せない

茂木 今回のコロナでは、感染症予防学もおそろしく政治的な学問だということがわかりました。

養老 コロナウイルス自体が政治的だからね。発生源とされる武漢の研究所は、建てたのは中国政府ですが、技術指導はフランスです。危険なウイルスを扱うP4実験室(BSL-4実験室)を作ろうとすると、どこの国でも住民から反対運動が起こる。だから中国に作られた。でも中国でそんなことしたら漏れるに決まっている。

茂木 養老先生は武漢の研究所から漏れた説に蓋然性が高いと思われていると。

養老 そのあたりが本当のところじゃないかと思っています。武漢の研究所には、米国立アレルギー感染症研究所所長であるファウチが資金提供していたという報道もありましたし、一時、中国でコロナはアメリカ製のウイルスだと騒がれていたのも、あながち無根拠じゃないんだと思います。コウモリから感染ったという説もありますが、そんなもんだったらとうの昔に流行っていたはずです。

茂木 医療そのものが政治経済的な意味合いがすごく大きいですよね。糖尿病とか高血圧とか、新しい病気を発明するたびにものすごく儲かると言います。

養老 その通りです。

東 僕はコロナウイルスについては違う意見です。ただ、医学と政治が深い関係にあるのは確かです。たとえば成人ADHDは、2010年からの10年で20倍に増えたと言われます。でもこれって、裏を返せば、10年で市場が20倍になったということですよね。