120%努力している人にしか幸運は訪れない
キム 僕自身のケースでいうと、20代の10年間はとにかくやりたいことは我慢をして、やるべきことをこなしました。社会というのはやっぱり他者がいて自分がいるわけですから、他者からの信頼がなければ、自分が何かをしようとするときにだれも応援してくれないと思うんです。
では、どうやって信頼を得ていくか。やっぱり自分が努力をして実績を残すしかない。その実績から生まれた信頼こそがブランドだと思っているので、私自身は20代の10年間は、とにかく自分が成長できる機会を得たら飛びつくことと、日々の中で自分の存在意義というものを自分で常に見つめ直すことに費やしていました。他の人では代替できないような自分というものをつくる気持ちで、すべての場面を自分の学びと成長につなげていく姿勢を貫くことが大事だと思っていたんです。
ですから、他者と比較をして、あの人はこれがあるからとか、家が恵まれているからとか、天性的な才能があるから、といったように、自分の弱さを正当化するために天性を持ち出したり、才能を持ち出したり、または家庭の環境を持ち出すことは自分の可能性に対する冒涜のような気がしたんですね。
僕自身は、成功というものは本当に常識的な努力の積み重ねでしか、勝ち得ることはできないと思っています。ある意味で幸運によってもたらされた成功は、本物の成功ではないような気がするんですね。なので、そういった幸運に依存しない、幸運に出会っても喜ばない、動じない強い自分をつくる。または幸運に依存しない強い自己をつくる。そうした気持ちを当たり前に持って、時間をかけて努力を積み重ねて、自分の内面の中で力を積み重ねて、それが結果を生み出して他者からの信頼を得て、自分自身が社会の中でいろいろ重要な役割を果たしていく、そういう道しか僕自身はないような気がしています。原点に戻るということです。
木暮 目標設定というのが、非常に大事で重要ですよね。社会人になって、本当に口酸っぱく、いつも言われていたことではあるんですが、それだけにすごく難しいことでもあると思うんです。
小倉 そうですね。僕は、目標設定はするものじゃなくて出会うものだと思っているんです。スタンフォード大学のクランボルツ教授が言っているPlanned Happenstance理論っていう計画された偶然性、という理論が大好きなんです。
要は世の中というのは、自分でコントロールできる範囲は限られていて、どんどん社会は変わるし、次々と連続した不確実性の中で、何が起きるかわからない。だから大事なのは目の前のことに対して、120%努力し続けていくことだ、と。そうすればきっといろんな偶然が訪れてくるし、ラッキーも訪れてくるという。
これは単なるラッキーではなくて、当たり前のことです。社会は網の目の人間性の中ですから。当たり前ですけど、目の前の仕事に手を抜いて文句を言って、おもしろくないなとか、この仕事なんてつまらないんだろう、と言っている人の前にラッキーは訪れない。でも、つまんない仕事だろうが、いやな仕事だろうが、いきいき楽しく120%がんばっていると、だれでも輝いて見えるんですよね。
つまんない仕事を一生懸命やってるやつは、やっぱり上司から見るとかわいいわけです。僕もそうですね。つまんない仕事を一生懸命やってるやつを見ると、もっとこいつに、とか、思うわけです。こんなちっちゃなことに、例えば細かい話でいえばコピーを一つとるのでも、実は上司は見ているんです。試しているわけです。
コピーだからいいや、って手を抜く人とコピーだけどどうやったらいいコピーがとれるかな、という人を見て、いいコピーをとっている人を見たら、こいつにコピーをとらせているのもったいないな、もっとおもしろい仕事をやらしてやろうと思うでしょうし、そういう中で次々と連続的な小さな変化が起きてきて、気がつくととんでもないチャンスが来るというわけです。
120%努力している人にしかラッキーは訪れなくて、つまんねえな、いつかラッキーが来ないかな、何で俺のところにはおもしろい仕事がこないんだろう、という人には、だから永遠に来ないわけです。それはすごく意味があって、Planned Happenstanceもそうだと思っていて、やっぱり目の前のことを120%やっていると次々にいろんな偶然が出るんです。例えば僕は今、本を書く仕事が実はかなりメインになっているんですが、気がついてみたら、子どものころにやりたかったことって、そう言えば文章を書いて、本を書くことだったなと、つい、この間、気づいたんですよ。
忘れていたんです。途中で夢って変わるじゃないですか。医者になりたいとか、弁護士になりたいとか、そっちの方は覚えていたんですが、大きく遠回りして、全然違うことをしていたのに、気がついたら本を書く仕事にものすごい近道を進んでいた。一時は諦めたり、遠回りだと思っていたのが結果的にはものすごい近道だったんです。これもPlanned Happenstanceだと思うんです。そんなふうに僕は思っているし、本当にそういうふうに今にたどり着いています。
次回は4月8日更新予定です。
◆「対談 媚びない人生」バックナンバー
第1回 媚びない人生とは、本当の幸福とは何か 『媚びない人生』刊行記念特別対談 【本田直之×ジョン・キム】(前編)
第2回 大人たちが目指してきた幸福の形では、もう幸福になれないと若者たちは気づいている【本田直之×ジョン・キム】(後編)
第3回 日本人には自分への信頼が足りない。もっと自分を信じていい。【出井伸之×ジョン・キム】(前編)
第4回 世界を知って、日本をみれば「こんなにチャンスに満ちあふれた国はない」と気づくはずだ。【出井伸之×ジョン・キム】(後編)
第5回 苦難とは、神様からの贈り物だ、と思えるかどうか【(『超訳 ニーチェの言葉』)白取春彦×ジョン・キム】(前編)
第6回 打算や思惑のない言葉こそ、伝わる【(『超訳ニーチェの言葉』)白取春彦×ジョン・キム】(後編)
第7回 いつが幸せの頂点か。それは死ぬまで見えない【(『続・悩む力』)姜尚中×ジョン・キム】(前編)
第8回 国籍という枠組みの、外で生きていきたい【(『続・悩む力』)姜尚中×ジョン・キム】(後編)
第9回 「挑戦しない脳」の典型例は、偏差値入試。優秀さとは何か、を日本人は勘違いしている【茂木健一郎×ジョン・キム】(前編)
第10回 早急に白黒つけたがる人は幼稚であると気づけ【茂木健一郎×ジョン・キム】(後編)
第11回 やりたいことがたまたま会社だった。だから、自然体で起業ができた。【リブセンス村上太一×ジョン・キム】(前編)
第12回 不安は、将来に対する可能性の表れである。【リブセンス村上太一×ジョン・キム】(後編)
第13回 一番怖いのは、頭が固まってしまうこと【安藤美冬×本田直之×ジョン・キム】(前編)
第14回 面接で落とされたおかげで今の自分がいる【安藤美冬×本田直之×ジョン・キム】(中編)
第15回 自分を大きく見せようとすると、失敗する【安藤美冬×本田直之×ジョン・キム】(後編)
【ダイヤモンド社書籍編集部からのお知らせ】
四六判・並製・256頁 ISBN978-4-478-01769-2
◆ジョン・キム『媚びない人生』
「自分に誇りを持ち、自分を信じ、自分らしく、媚びない人生を生きていって欲しい。そのために必要なのは、まず何よりも内面的な強さなのだ」
将来に対する漠然とした不安を感じる者たちに対して、今この瞬間から内面的な革命を起こし、人生を支える真の自由を手に入れるための考え方や行動指針を提示したのが本書『媚びない人生』です。韓国から日本へ国費留学し、アジア、アメリカ、ヨーロッパ等、3大陸5ヵ国を渡り歩き、使う言葉も専門性も変えていった著者。その経験からくる独自の哲学や生き方論が心を揺さぶられます。
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WAVE出版・刊
ISBN 9784872905748
新卒でリクルートに入社、営業、企画、コンサルティング各部署でMVP受賞、同期の上位2%で課長へ昇進、その後ITベンチャー役員となり上場へ……。一見すると華々しく見える著者の経歴の陰に、2度のうつ病を患う苦しい時代があった。本書は著者が体験した「働く苦しみ」とそこから「抜け出す」きっかけとなった生身を剥き出しにしたような言葉が紹介されている。「会社を変えるな、自分を変えろ」「心を鷲づかみにされる」文章が心に響く「泣けるビジネス書」。
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〈2013年新書大賞〉67人が2012年に出版された新書1500冊から厳選して、第8位!
経済学の古典、マルクスの『資本論』と、世界的ベストセラー、ロバート・キヨサキの『金持ち父さん、貧乏父さん』は、じつは、まったく同じことを言っていた!!なぜ、仕事の合間に生活するような人生を送らなければならないのか?なぜ、努力をしても、成果をあげても、給料は上がらないのか?なぜ、社会が豊かになっても、働き方は貧しいままなのか?そして、どうすればラットレースに巻き込まれない「幸せな働き方」に到達できるのか??それらの答えがこの中にある。
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