赤い背景は大噴火の影響
ムンクの《叫び》
ノルウェーの画家エドヴァルド・ムンクは、空の色に大きな影響を及ぼす大規模な火山噴火があった時代に作品を手掛けており、同時代の画家たちとともにその影響を受けました。
火山噴火は、空の見え方に大きく影響します。大噴火が起きて、空気中に火山性粒子が増えると、太陽光がより散乱されます。そのため、夕焼けや朝焼けの見える範囲が広がり、持続時間が長くなるとともに、色彩が鮮やかになると言われています。
ムンクの《叫び》は、噴火の影響を受けた作品の一つであると言われています。《叫び》のインパクトというと、人物の様子もさることながら、ドクドクと血のように流れる背景の赤。ムンクは「日が沈んだ。空が突然血のようになった。大きな叫びが自然を通り抜けた」と書き残していて、赤の正体は、夕焼けであることがわかります。テキサス大学の天体物理学者ドナルド・オルソン教授は、この夕焼けが火山噴火時を描写したものである可能性を指摘しています。
ムンクが《叫び》を完成させる10年ほど前、1883年8月27日、インドネシアのクラカタウ火山が歴史的な大噴火を起こしました。火山灰は、地球全体に広がり、ムンクの故郷であるノルウェーではもちろん、アメリカでも観察されました。噴火の影響による津波は遠く離れた鹿児島にも到達したと言われています。
歴史に残るような大噴火の場合は、大量の火山灰が上空に達し、大きな風の流れに乗って、世界中に拡散されます。そして、日差しは長期間遮られ、世界的な低温が続く。その結果、大規模な飢饉や感染症の蔓延が起こるのです。日本で言えば、天明の大飢饉なども、国内外の大規模噴火が一因なのではないかと言われています。このクラカタウの大噴火でも、ヨーロッパで、長期的な天候不良が起こり、大凶作となって、大きな影響が出ました。