役割によって使うべき言葉がある
人は言葉から人物を特定する
しかるべき役割の人が、不適切な言葉を用いたとき、何が起こるか。
皆さんにはここで、架空の例を用いたある問題に取り組んでもらいながら、言葉というものの力について考えてもらいたい。
問題:皆さんは以下のような発言を聞いて、この人はどんな仕事をしている人だと思いますか?
おそらく多くの人が、「外資系コンサルタントっぽいな」と思ったのではないだろうか。本当に外資系コンサルタントが、こういう喋り方をしているのかは、分からない。外資系コンサルタントに会ったことのない人もいるだろう。
だが、会ったことがあるかどうかにかかわらず、皆さんは、たかだか数十文字の文章を読んで、この人は何者なのかを特定しようとした。恐るべきは、言葉の力、私たちの脳の働きである。
何が言いたいのか、なんとなく見えた人もいるかもしれないが、結論を急がず、もう少し問題にお付き合いいただきたい。
問題:皆さんは以下のような発言を聞いて、この人はどんな仕事をしている人だと思いますか?
今度は、お役所に勤めている年配の人物をイメージしたのではないだろうか。先ほどと、言っていることはおおむね同じである。
ここで皆さんは気が付いたことだろう。
「同じ意味を持つ表現が無数にある中で、どういう表現が使われたかによって、私たちは相手の人物を特定する」のである。
こうした、人物像を特定する言葉のことを「役割語」という。
国語学者の金水敏(きんすい・さとし)大阪大学名誉教授は、日本語の文学作品において、「ワシ」だとか「あたい」「おいら」「~ざます」のような表現が、読者にキャラクター像を作らせているという事実を分析し、これらの言葉を「役割語」と定義した。
そう、私たちは相手が使う言葉を聞いて、相手がどういう人物なのか、何者なのかを特定するのだ。