私も以前、セルフサービスのカフェで食器を下げるときに、食器を返却する場所が分からず迷ったことがありました。「たぶん、すぐそこのカウンターに返却すればいいんだろうな」と思ったのですが、いまいち自信がありません。そこで店員さんに「食器はそこに返却すればいいですか?」と尋ねたところ、「あ、大丈夫ですよ~」という返事が返ってきました。私は、これが「そこに返却してもらってOKです」という意味なのか、「私たちが運びますので、お客様に返却していただかなくても結構です」という意味なのか、分かりませんでした。

 ちなみにたった今、私は説明の中で「OKです」と「結構です」という言葉を使いましたが、これらも実は曖昧です。以前、雑誌に載せる文章の校正をしているときに、編集者から「ここの数字の表記を、漢数字から洋数字に変えますか?」という問い合わせがありました。私は「変えていいです」という意味で「OKです」と言ったのですが、相手は私が「そのままでOKです」、つまり「変える必要はない」と言ったと解釈しました。

書影『世にもあいまいなことばの秘密』(ちくまプリマー新書)『世にもあいまいなことばの秘密』(ちくまプリマー新書)
川添 愛 著

 最近は、「大丈夫です」や「OKです」を単独で使うのはやめて、「ご提案のとおりでOKです」とか「お気遣いいただかなくても大丈夫です」などと言うようにしています。このように、より具体的な言葉と一緒に使えば曖昧さが消えます。また、こうすることで、「大丈夫です」「OKです」といったやんわりした言葉の真価が発揮されるような気がします。というのも、「ご提案のとおりにしてください」とか「お気遣いは要りません」などのように命令文や否定文の形で言い切ってしまうよりも、「OKです」「大丈夫です」などを付けた方が印象が柔らかくなるからです。

「結構です」にも、「それで良いです」という意味と、「要りません」という意味があります。こういった曖昧さが、電話を使った詐欺の手口にも使われることもあります。たとえば、電話口のセールスで「これこれこういう商品がありますが、いかがですか?」と質問されたときに「結構です」と断ると、「承諾した」とみなされ、勝手に商品や契約書が送り付けられることがあるそうです。こういうときは、「要りません」とはっきり否定の形で言いきるのが有効でしょう。