中国の水産業界で進む日本産抜きの高級化?
この状況から見えてくるのは、中国の水産物の一大変革だ。
2000年代初期、上海でさえも冷蔵設備は不十分で、市場の水産物は発泡スチロール箱に入れて売られていた。コールドチェーン(冷蔵・冷凍に保ったまま流通させる手法)は未発達で、鮮度管理が必須の刺し身などの消費は、極めて限定的だった。
しかし2005年を前後して、日系商社の取り組みの下で超低温物流などが整備され、中国の水産業界全体が徐々に底上げされていった。こうした黎明期を経て、中国は今、近海・遠洋漁業のみならず、養殖、加工、貿易や流通にも乗り出し、水産業の大規模化、国際化、エコロジー化を目指している。
昨年11月には、中国屈指の水産拠点であるアモイ市で、当局の主催で水産物の国際会議が開かれたが、高級輸入水産市場の拡大に焦点を当てたフォーラムには、英国、アルゼンチン、ノルウェー、米国、ペルー、カナダ、ベトナムなどの大使館や業界団体の代表が参加した。
こうした報道からは、日本の不在の下でも、中国における高級水産物市場の形成が進んでいる一端が垣間見られる。
筆者はクアラルンプールでの取材中、「日本への出張から戻ったばかりだ」と話すマレーシア人の仲買人と出会った。日本の錦鯉と金魚の売買が彼の生業であり、数週間で日本の養殖地を数カ所巡ったという。
「今、日本の錦鯉も金魚も中国に直接輸出できないので、取引の一部はマレーシア経由で行っている」とこの仲買人はほのめかした。両腕に金魚のタトゥーのある40代と思しき彼の話からは、中国の水産物禁輸がマレーシアにもたらす商機が見て取れた。
この十数年間、世界は中国の独り勝ちを許してきたが、それが意味するものは巨額の資金を惜しみなく投じた“独り占め”でもあった。水産物もまたその一つだった。
しかし、中国による禁輸は、皮肉にも“オウンゴール”となり、日本にとっては新たなマーケティングの機会を、マレーシアにとっては従来手に入りにくかった高級水産物の供給をもたらしている。
中国との結び付きが薄れることで逆に軌道を取り戻す…そんな“玉突き現象”はマレーシア以外にもあるのかもしれない。