「記憶の配当」を意識する

 同書では、「思い出や経験は、死ぬまで我々に配当を与えてくれるものだ」とも書いています。

 たとえば、お金をかけて20代のうちに世界一周旅行をしたとします。その旅行から得た経験ポイントは、以後いつまでも記憶の中に残り続けるでしょう。そして、その記憶を思い出して楽しい気持ちになることができます。さらに、家族に思い出話をして楽しんだり、他の人に話して共有したり、ときにはその経験を生かしてアドバイスをしたりすることもあるかもしれません。

 こうした、経験から引き出されるポジティブな連鎖反応のことを、同書では「記憶の配当」と呼んでいます。

 もし、70代になってから世界一周旅行をしたら、それはそれでいい経験・思い出になるとは思います。しかし、記憶の配当を得る時間は20代のときよりもずっと少なくなってしまいます。仮に90歳まで生きるとして、20代の経験からは約70年間にわたって記憶の配当が得られるのに対し、70代の経験からは20年間しか記憶の配当が得られないからです。

 さらに、記憶の配当は、再投資することによって複利効果が得られます。複利効果は、何も投資だけに使えるものではありません。経験にも活用できます。今しかできない若いうちの経験に、お金と時間を集中させたほうがのちのちの自分のために良いというわけです。

経験を楽しむ能力は加齢に合わせて減っていく

 若いうちの経験にお金と時間をかけたほうがいい理由はもうひとつあります。それは、経験を楽しむ能力は加齢とともに減っていくからです。

 20代と70代の世界一周旅行では、できることにも違いがあります。20代であれば、アクティブにいろいろなところを巡り、そこに住む人たちと交流することもできるでしょう。多少無理をしても、若さや体力で乗り切ることができます。

 しかし70代の世界一周旅行では、そうはいきません。確かに、20代よりもお金は持っているかもしれませんが、健康ではないかもしれませんし、できることも限られてしまいます。何より、そうするだけのバイタリティーを高齢になっても持ち続けられる人は、それほど多くないでしょう。

<経験を楽しむ能力は年齢が上がるにつれて減少>

老後に後悔する人、しない人の「お金の使い方」決定的な違い著書『マンガと図解 はじめてのFIRE』(宝島社)より抜粋
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 上図は、経験を楽しむ能力が、年齢が上がるにつれて減少していく様子を表したものです。いくら健康状態がよい人でも、年齢が上がれば身体的な能力が低下していきます。健康状態がよくない人なら、その低下がもっと早く起こります。70歳、75歳などと高齢になってからでは、経験を楽しむ能力はだいぶ低下してしまいます。

 若いうちにさまざまな経験を積んだほうがいいというのがわかりますよね。

「タイムバケット」で老後に後悔しない人生をつくる

 どんな経験にも「それが一生できなくなってしまう」タイミングがあります。子育てに置き換えるとわかりやすいかもしれません。おむつを取り替える、幼稚園や保育園に送り迎えする、勉強や部活動に関わる、受験を応援するといったことは、いずれ終わるときがやってきます。子供も成長するにつれて、外にコミュニティを形成し、家族で過ごす時間も減っていきます。

 同書では「喜びを先延ばししすぎた後悔は、人生の終わりに一度だけ味わうわけではない。それは長い人生の中で、繰り返し頭に浮かんでくるものだ」と書いています。つまり、後悔は死ぬまで続くという指摘です。

 お金も時間も、使えるときに使っておくという考え方を持ち、行動することの大切さを教えられます。私自身も、4月で中学生になった息子がいますが、同書に刺激を受け、今しかできない旅行やお出かけをして、家族の思い出をたくさんつくっています。今後もたくさん経験や思い出をつくっていく所存です。

 さて、同書では、人生の各段階の有限さを意識しやすくなるツールとして「タイムバケット」を紹介しています。

 タイムバケットは、自分の年齢や年代をバケツに見立てて、各年代で自分がしたいことをまとめたもの。いわば年齢別の「死ぬまでにやりたいことリスト」です。

 現在をスタート地点、予想される人生最期の日をゴールとします。そして、その間を5年、10年で区切り、その区切り(時間のバケツ=タイムバケット)に、やりたいこと、起こりうる大きなイベントを入れていきます。

 ご参考までに、私の著書で紹介している例を二つ挙げます。

<タイムバケットの例①>

老後に後悔する人、しない人の「お金の使い方」決定的な違い著書『マンガと図解 はじめてのFIRE』(宝島社)より抜粋
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<タイムバケットの例②>

老後に後悔する人、しない人の「お金の使い方」決定的な違い著書『マンガと図解 定年前後のお金の教科書』(宝島社)より抜粋
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 時間と健康とお金を軸に考えると、自由な時間を得たからできること、健康であるからこそ楽しめること、お金があるから実現できることがそれぞれ違うことがわかるでしょう。将来、時間ができたときにやろうということでも、若いうちにやることで価値が大きい(「記憶の配当」がたくさん得られる)ということもあるでしょう。

 残りの人生で何をしたいのかを時系列で考え、今しかできないことに集中して取り組むことで、人生がより豊かになっていきます。また、それをするために必要なお金を考えれば、貯蓄や投資の目標設定にも役立ちます。

 お金を“経験”に使う大切さが学べる本『DIE WITH ZERO』を多くの方に読んでいただき、「富」の最大化ではなく、「幸福」の最大化を目指していく生き方が増えることを願っております。

頼藤太希(よりふじ・たいき)
(株)Money&You代表取締役/マネーコンサルタント
中央大学商学部客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に創業し現職へ。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」、書籍、講演などを通じて鮮度の高いお金の情報を日々発信している。『マンガと図解 50歳からの「新NISA×高配当株投資」』(KADOKAWA)、『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)など書籍90冊、累計150万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。