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台湾の半導体大手TSMCが熊本県に日本初の工場を開所したことで、熊本の人口動態や社会構造が大きく変化しようとしています。それまで多かったベトナム人・中国人を、台湾人の人口が上回りそうなのです。多文化社会への対応に課題を抱える日本にとって、これは多様性の受け入れ方を見直す絶好の機会。同時に、台湾企業から見てもこれは大きなビジネスチャンスです。熊本・菊陽町に起こりつつある変化をまとめました。(名古屋市立大学大学院人間文化研究科研究員 齋藤幸世)

台湾TSMCの日本進出で、
熊本県の人口動態が変化しつつある

 熊本県に在留する外国人で最も多いのはベトナム人です。熊本県の統計(※)によると、2022年に熊本県に在留していた外国人の人数と同県の在留外国人全体に対する割合は、1位がベトナム(6251人、30.3%)、2位が中国(3201人、15.5%)、3位がフィリピン(3044人、14.7%)、10位が台湾(349人、1.7%)という状況でした。2017年までは1位であった中国をベトナムが追い越したのは、同国からの技能実習生が急増したことが主な要因です。

国籍別 県内在留外国人数(外国人登録者数)の推移(上位5カ国、過去10年) 出典:『熊本県の国際交流』国籍別 県内在留外国人数(外国人登録者数)の推移(上位5カ国、過去10年) 出典:『熊本県の国際交流』 拡大画像表示

 しかし、この順位が様変わりしようとしています。2024年以降には、台湾が1位になりそうな勢いです。

(※)観光交流政策課令和6年3月発行『熊本県の国際交流 International Exchange Information of Kumamoto』令和5年度版(2023年度版)、第1部 国際化をめぐる熊本県の状況「国籍別 県内在留外国人数(外国人登録者数【R4年人数上位30カ国・過去10年の推移】」

 今年2月24日、台湾の半導体受託製造企業TSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)が、その日本初の工場としてJASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)を熊本県菊陽町に開所しました。JASMは、筆頭株主のTSMCが日本のソニーセミコンダクタソリューションズおよびデンソーと共同出資したTSMCの子会社です。

 JASMは、TSMCと同様の半導体受託製造企業で、今年末に製造を開始する予定。JASMオープンに合わせて、台湾のTSMCから第1陣の従業員約750人が日本に出向してきました。その半数ほどは子女と共に熊本に移り住むことになったと台湾では報道されています。台湾からたくさんの人々がやってきたことを受け、地元菊陽町を始め、熊本県や熊本市も迅速に適応せざるを得ない状況になりました。