日本と同じく高齢化が急速に進む台湾は、高齢者の介護人材不足という問題を抱えており、外国人労働者に頼ることでこの問題を解決しようとしている。一見、日本と同じような解決方法に見え、台湾の人たちもしきりに「この点で、日本は我々のライバルだ」と言うのだが、実態を知れば知るほどまったくライバルではないと思えてしまう。というのも、台湾がリードしすぎていて、日本は勝負のスタートラインにすら立てていないからだ。(日中福祉プランニング代表 王青)
先月、台湾における外国人介護人材の政策、現状、課題をテーマに、日本の大学教員や台湾の福祉研究者らと共にコーディネーターとして台湾を訪問した。訪問先で何回も耳にしたのは、「外国人労働者の獲得において、日本は我々のライバルだ」という言葉だった。少子高齢化が進む日本と台湾は、共に介護人材不足という問題を抱えており、外国人労働者に頼ることで解決しようとしている。「外国人介護人材の奪い合い」とはっきり言う人もおり、台湾からは日本へのライバル意識が感じられた。
しかし、交流を深めるにつれ、日本は本当に台湾の「ライバル」なのか、台湾が日本にライバル意識を持つ必要があるのか、疑問を抱くようになった。
台湾では高齢者の施設入居に拒否感が強く
一般家庭に外国人介護人材が住み込むのが一般的
現在、台湾の高齢者人口は約420万人(人口率18%)。そのうち要介護者は76万人だ。伝統的に大家族同居が一般的で、家族が介護を担ってきた台湾では、高齢者の施設入居に強い拒否感があるため、在宅高齢者が多い。女性の社会進出や核家族化により、外国人移住労働者(外籍移工)への依存が高まっている。これは約30年前から始まり、一般家庭での外国人労働者の住み込みが一般的になった。
台湾の人口2339万人に対し、外国人は約75万人(約33人に1人)。介護分野に従事する外国人は約25万人おり、その90%以上が住み込みだ。国別ではインドネシアが最多で約16万人(75%)、フィリピンが2.8万人(13%)、ベトナムが2.7万人(12%)の順となっている。
台湾の全人口の約3%を占める外国人労働者に対し、彼らを社会に溶け込ませ、一員にするため、約1500の人材仲介会社やNPOがさまざまな取り組みを行っている。「外国人労働者を単なる労働力と見なさず、台湾経済に貢献する消費者、社会の一員として、最終的には『新台湾人』として受け入れることが我々の使命」と語るのは、人材仲介会社「美家人力」の林淑如董事長だ。
「美家人力」は2012年設立で、2021年には台湾で初めて人材派遣、在宅介護サービス、移民事業の3つのライセンスを取得した。外国人労働者の企業マッチング、職業訓練の他、為替送金、宿舎提供などのサービスを行っている。林董事長は「外国人労働者のイメージが変わった」と言い、彼らの生活様式の変化に言及。昔は給料の大部分を故郷に送金していたが、今は半分を仕送りし、残りで豊かな生活をする人が多いという。お金を使って、台湾での生活を楽しんでいるのだ。同社でも彼らに対し、ネイルや美容などのサービスを提供している。
林董事長は、経済が発展するにつれ、外国人労働者が台湾に来なくなる可能性について懸念を示す。インドネシアを含め、途上国と言われていた東南アジア諸国の経済発展が進めば、外国で働く必要がなくなるのではないか、と心配しているのだ。