菊陽町だけでなく、熊本県および市が主導し、さまざまな国籍の人たちを受け入れられる社会を構築することが早急に求められています。そして、この地域の取り組みを参考にして、日本全体が多文化社会への理解を深め、適応していく時が来ているのかも知れません。

在留資格別に見た、県内在留外国人の推移(過去10年)。最も多いのは技能実習生で、ベトナム人やフィリピン人が多い。永住者の2倍近く、6100人以上が熊本県に在住している。出典:『熊本県の国際交流』在留資格別に見た、県内在留外国人の推移(過去10年)。最も多いのは技能実習生で、ベトナム人やフィリピン人が多い。永住者の2倍近く、6100人以上が熊本県に在住している。出典:『熊本県の国際交流』
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 そして忘れてはならないのは、現在熊本県内に最も多く在留している外国人はベトナム人だということです。彼らの多くは技能実習生という異なる立場ですが、JASMの従業員ばかりに注目し政策を講じ過ぎる偏重は、本来の多文化社会構築とは言い難く、差別感が否めません。また、永住者として居住している中国人も多数おり、彼らとの関係性も留意すべき点です。社会全体の構成員を視野に入れた取り組みが、トラブルの軽減につながると考えられます。

公立の小中学校も、
台湾の子どもたちを受け入れる準備をしているが……

 JASMの稼働に伴って台湾から来る子どもたちは、熊本でどの学校に通うことになるのでしょうか。現在受け入れ可能な学校は、以下のようにさまざまあります。

 まず、熊本には、英語で授業を行うインターナショナルスクールとして、熊本インターナショナルスクールや九州ルーテル学院インターナショナル小学部があります。ただ、台湾の児童たち全てがいずれかのインターナショナルスクールに通うというわけでもありません。地域の公立小学校も台湾の児童を受け入れる準備に取り組んでいます。

 例えば、2023年1月末の段階で、まず熊本市教育委員会は、日本語指導拠点校として指定している中央区の2校以外に、新たに北区と南区それぞれ1校ずつを加えることとしました。また、日本語指導拠点校は、日本語の教育を必要とする子どもが多い地域の学校を拠点とし、拠点校に在籍する担当教員が他の小中学校にも出向いて授業を行います。この方針は、既に同年4月から実施しているようです。次いで、同年2月初旬に菊陽町の公立学校を管轄している熊本県教育委員会は、菊陽町立の小学校と中学校のそれぞれ1校ずつを台湾の児童たちの受け入れ拠点校にし、新たに教職員、日本語指導員、教育支援員の配置と翻訳機の配備の意向を発表しました。

 それに先立ち、熊本県と台湾の中学校間で交流会を試みました。その際に使用した共通言語は英語か、台湾の児童が日本語を話し、日本の児童が英語を話すといった状況でした。また、菊陽町立の小学校の児童が、菊陽町に訪れる外国人を歓迎するために多言語看板(日本語・英語・中国語)を作成し、菊陽町役場に手渡す場面がニュースで放送されました。しかし残念なことに、この多言語看板の中国語は台湾の繁体字ではなく、中国の簡体字でした。これは、教師だけでなく報道関係者も含めて、台湾への認識不足が表れた一例といえます。

 中国語に関する問題は、熊本県や熊本市のホームページにも見られます。いずれのサイトも外国語の選択肢で中国語の簡体字と繁体字が別枠で設けられています。さらに、「熊本県外国人サポートセンター」のホームページに中文(繁体字)の相談フォームがあるのですが、クリックすると中国の簡体字で説明とフォームが表示されます。予算不足や経費削減でこうした「張りぼて」のような不完全な翻訳状態のホームページになっているのかもしれませんが、本来はネイティブチェックを通すべきです。正確さに欠けるだけでなく、提供する相手への敬意も欠如していると思います。