日本経済新聞の名物コラムを活用
偉人に相手を重ねる「私の履歴書トーク」

 日本経済新聞に『私の履歴書』という名物コラムがあります。政治、経済、文化、スポーツなどの分野で偉業を残した方の半生を綴ったコラムです。

 この『私の履歴書』が、商談のアイスブレイクに意外と使い勝手がいいのです。何故、使い勝手がいいかというと、意外に多くの人が読んでいるからです。

 社会人、それもある程度の役職についている年齢層なら、日本経済新聞を購読している人がかなり多くの割合を占めます。

 しかも、このコラム欄はとても目立つ場所にあります。通常の一般紙であれば、ラテ欄と呼ばれるテレビ番組が掲載されている面です。一番外側の紙面で、一面と並んでよく目に付くところです。

 さらに偉業を成し遂げた方の半生が書いてあるので、自然とストーリーになっているのです。人間の脳はストーリーが大好物です。単なる情報はなかなか頭に入ってきませんが、ストーリーはすっと頭に入ってきて、しかも記憶に残る習性があります。

 私は以前、スランプに陥り、コントが全く書けなくなった時期がありました。何とかスランプを解消しようと、文章術で有名な作家の高橋フミアキ先生に弟子入りしたことがありました。

 高橋先生が小説講座の講義で、人間の脳はストーリーが大好きだという話をしていました。イマイチしっくりこない顔をしていた私たち受講生に、高橋先生が質問しました。

「君たちは芥川龍之介の蜘蛛の糸という小説を知っているかい?」

 全員がうなずきます。すると続けて「どんな話だったか、覚えているかい」と聞きました。また全員がうなずきます。

「では、蜘蛛の糸の冒頭は、どんな書き出しだったか言えるかい?」

 私も含めて、全員が答えられませんでした。あなたは即答できますか?

 ある日の事でございます。御釈迦様は極楽の蓮池のふちを、独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。池の中に咲いている蓮の花は、みんな玉のようにまっ白で、そのまん中にある金色の蕊からは、何とも云えない好い匂いが、絶間なくあたりへ溢れて居ります。極楽は丁度朝なのでございましょう。(青空文庫より引用)

 実際はこんな感じでした。高橋先生は言いました。

「ストーリーは覚えていても、どんな書き出しだったかという情報は覚えていなかったでしょ?」

 ストーリーの力を実感した瞬間でした。

 話が脱線してしまいました。元に戻しましょう。基本的に情報ばかりの新聞の紙面で、ストーリーが書かれている記事は数少ないのです。

 つまり、こちらとしても読みやすいし、先方も読んでいる可能性が高いということになります。