「卓球台サイズ」から「卓上サイズ」に…
「尖った商品」の好例とは?

 3次元測定器は、対象物の寸法や形状を「縦・横・高さ」の3軸で正確に測定できる機械だ。主に製造業を営む企業が、「設計図通りに商品を製造できているか」を検証する目的などで使用する。

 大崎氏によると、当時の3次元測定器は卓球台ほどの大きさが一般的で、企業が設置するにはハードルが高かった。オフィスや工場に「専用の部屋」が必要なレベルであり、敷地・社屋が狭い企業が気軽に導入できる代物ではなかったという。

 スペースに余裕がない企業の担当者が、3次元測定器を設置済みの近隣企業を訪問し、装置を借りて測定させてもらう例もあったという。裏を返せば、3次元測定器は製造業界で非常に高いニーズがあるにもかかわらず、手軽に購入・利用できない点が課題だった。ここに商機があると大崎氏は見抜いた。

 そこで大崎氏は、設置場所を選ばない「卓上型の3次元測定器」を企画。小型化した分、従来の機種よりも測定精度は若干落ちたが、精度はあえて「引き算」した。顧客へのヒアリングの結果、「高すぎる測定精度は不要」との声が多かったこともあり、精度という土俵で競合と勝負することを避けたのだ。

 その代わりに「コンパクトさ」という武器を尖らせ、市場になかったモノを生み出した。先述した「ずらし」の技術を使ったのである。

「そもそもサイズの大きい対象物は測定できませんし、精度以外にも不要だと判断した要素はとことん『引き算』しました。商品の完成が近づいた段階で、顧客に見せに行こうと連絡したところ、従来型のイメージが根強いせいで、小型化したにもかかわらず『トラックで持ってくるの?』と驚かれたことを覚えています」(大崎氏)

 その後、卓上型の3次元測定器を世に出すと、狙い通り「まさにこれが欲しかった」と評価してくれる顧客が多かったという。既存の商品と値段を比べられることもなく、キーエンス側で決定した価格が受け入れられたと大崎氏は振り返る。

 いかがだっただろうか。キーエンスが圧倒的な利益率をたたき出している背景には、「引き算」と「ずらし」によって「高値でも売れる商品」を生み出す企画術があったのだ。

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