激しさ増す鉄道事業者による
沿線住民の囲い込み合戦

 その中でも注目しているのは横断的な購買データの取得のようだ。JR東日本は2018年に発表したグループ経営ビジョン「変革2027」の中で、「移動のシームレス化」と移動・購入・決済など多様なサービスの「ワンストップ化」の一環として「金融機関、決済企業等の商品・サービス」の強化を掲げていた。

 その中心となるJRE POINTは、2016年に誕生した。それまで鉄道利用でたまる「Suicaポイント」「えきねっとポイント」、ビューカードの利用でたまる「ビューサンクスポイント」、各駅ビルの会員ポイントなど、ポイントサービスが乱立していたが、2021年までにJRE POINTへの統合を完了した。

 この過程で、2019年にSuicaとJRE POINTをひもづけし、鉄道利用で共通ポイントがたまる仕組みを構築。グループ全体の購買データを一元的に把握できるようになった。ここに銀行口座の入出金記録が加われば、鉄道利用から買い物、引き落としまで一貫したデータが集まってくる。これを「怖い」と取るかどうかは本人次第だが、利用するのも一つの選択肢だ。

 鉄道事業者の銀行代理業参入は、今後も続く可能性が高い。実はJR東日本に先駆けて金融サービスを開始したのは、京王電鉄だ。京王はJR東日本の発表より後、2023年4月に「京王NEOBANK」設立を発表したが、同年9月27日に提供を開始したため、国内初となる「鉄道グループによるフルバンキングサービス」となった。

 こちらは住信SBIネット銀行を所属銀行、京王パスポートクラブを銀行代理業者として、京王が発行する京王パスポートカード会員を対象に提供する。提携ATMの手数料が一定回数まで無料や、預金額や取引に応じたポイントの付与などはJRE BANKと同様だが、ウェブサイトのトップに「京王NEOBANK住宅ローンなら京王ポイントが最大12万円相当もらえる!」とあるのは不動産事業を営む私鉄らしい。

 京王NEOBANK設立の狙いを京王に聞くと、ひとつは「京王グループの新たな顧客基盤として、銀行口座は生涯にわたり利用する長期的な顧客接点となり得る」こと、もうひとつが「若年層、子育て世帯などこれまで関わりが薄い層との顧客接点」の創出にあるといい、具体的なメリットとして「京王グループの分譲マンション事業強化にあたり、自前の住宅ローン提供が可能」となったことなどを挙げている。

 京王NEOBANKは開業以降、口座数や銀行取引、住宅ローンの取り扱い件数が着実に増加しているといい、今後も利用者数は伸びていくと期待を寄せる。「引き続き認知拡大・販促活動を行うとともに、グループシナジーを活用して事業を成長させ、将来的には京王グループの主な顧客基盤の1つになれるようにしていきたい」と意気込みを語った。

 首都圏でも人口減少社会が到来する中、鉄道事業者の沿線住民獲得合戦と囲い込みはますます激しくなる。銀行代理業への参入は想定通りの成果を生み出すのか。まずは、特典情報に熱狂したSNSユーザーたちが本当にJRE BANKに口座を開設するのか、から注目してみたい。