医療のイメージ写真はイメージです Photo:PIXTA

感染症研究のプロである筆者は、「サンタクロースが感染症にかかった状態でプレゼントを配ったときに、そのインパクトがどのくらいになるのか」を数理モデルで研究したことがあるという。超極端な前提での試算から見えてくるものとは……!?※本稿は、古瀬祐気『ウイルス学者さん、うちの国ヤバいので来てください。』(中公新書ラクレ)の一部を抜粋・編集したものです。

短期間に多数の人と接触する人が
もし陽性者だったら?

 医学研究というと、病気になる仕組みの解明や新しい薬の開発が花形だと思う。僕も研究者として細胞とウイルスを使った科学実験を日々行っており、病気が起こるメカニズムについて調べている。

 さらにほかにも、感染症がひろがっていくダイナミクスを理解するための数理モデル研究、公衆衛生に関するビッグデータを扱う統計研究、遺伝子の進化についてコンピュータ解析をするインフォマティクス(情報学)研究などを行っている。

 まずは、一つ目。感染症がひとからひとに伝播していく様子は、さまざまな数理モデルやシミュレーションであらわすことができる。中でも、微分方程式を用いる「SIRモデル」は、新型コロナウイルス感染症の流行対策に活用されて有名になったので聞いたことがあるかもしれない。

 僕は、サンタクロースが感染症にかかっている状態でプレゼントを配ったときに、そのインパクトがどのくらいになるのかを数理モデルで研究してみた。おもしろいことに、サンタさんからプレゼントをもらえる子どもはどのくらいの割合なのか、といった過去の研究があることもわかり、それらのデータを使いながら計算を進めた。

 サンタさんがプレゼントを配る際に病気を直接うつしてしまう人数だけでなく、そのあとにその子たちから周りの家族や友だちに病気がうつり感染がひろがっていくことまでも考慮してシミュレーションを行った。

 インフルエンザを想定した場合、病気のサンタさんが襲来すると確かに感染者の総数は増える。けれども、インフルエンザはそもそも毎シーズンのように人口の10~30%が罹患してしまうほどの大きな流行を引き起こす感染症だ。その規模と比べてみると、サンタさんの影響は2%程度の増加という、意外にわずかなものだった。

 つぎに、麻疹を想定して計算を走らせてみた。麻疹のワクチン接種率が85%といまの日本よりいくぶん低いくらいだと病気のサンタさんによって高確率で大流行が引き起こされてしまうものの、ワクチン接種率が95%と十分に高ければ、麻疹にかかっているサンタさんがやって来ても局所的な感染伝播のみで流行がすぐに終息することがわかった。