なぜ住宅ローン高の米国で新築販売数が“増えた”のか?日米で驚くほど違う「住宅と金利の関係」Photo:PIXTA
*本記事はきんざいOnlineからの転載です。

 米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げで住宅ローン金利が23年ぶりの高水準となったことを背景に、2023年の米国の住宅総販売戸数は2年連続の減少となった。これは、低金利のローンを組んだ既存住宅保有者が住み替え時の金利負担の急増を避けるために、現在の住宅に当初予定よりも長く住み続ける「ロックイン効果」が発生したためだ。今後、政策金利の低下に伴う住宅取得環境の改善が期待されるが、現在の金利水準が当面続くようであれば、24年も住宅の売買は低調となる可能性があるだろう。

既存住宅の動向が重要な米国の住宅市場

 米国では、住宅価格の上昇分を現金化する仕組みが定着している。住宅価格が上昇した際に担保価値の上昇分を追加で借り入れる「ホーム・エクイティー・ローン」や、借り換えの際に既存債務の残高よりも大きい金額の融資を受ける「キャッシュ・アウト・リファイナンス」といったものである。2020年4月から21年12月までに住宅ローンの借り換えをした1,400万世帯のうち500万世帯が、キャッシュ・アウト・リファイナンスを利用した。消費者ローン等よりも金利負担が少ないこともメリットである。

 これにより調達した資金は、消費に回すことが一般的である。実際、住宅価格の上昇は米国のGDPの7割を占める個人消費に影響を与えているとの分析が多くある(注1)。

 次に住宅市場の規模を見ていくと、GDPに占める住宅投資の割合は日米共におおむね4%と同程度である。また新設住宅着工戸数は日本が82万戸(23年)、米国は141万戸(同)である。一方で、既存住宅販売戸数は日本が17万戸(18年、注2)であるのに対して、米国は409万戸(23年)に上る。この点から、米国の住宅市場を見る際には、既存住宅の動向が極めて重要であることが分かる。

 住宅金融の面を見ると、住宅ローン債務残高対GDP比は日米共に約4割で、大きな差異はない。一方で、住宅ローンの長期固定金利の利用割合は日本が1割程度であるのに対して、米国は9割程度の水準となっている。

 米国では、08年のリーマンショック前に変動金利の利用割合が3割程度に達した時期もあったが、金利上昇のリスクを十分に説明せずにリスクが顕在化して返済困難となるケースが続出した。その後、当局が金融機関に対して金利変動リスクの説明義務を強化したこともあり、長期固定金利の割合が高くなっているとの分析(注3)がある。この長期固定金利の割合の高さが住宅市場にも影響を与えている。

 変動金利の住宅ローンにおける金利上昇時の急激な負担増を防ぐためのルールも異なる。米国では変動金利であっても原則として金利の上限(キャップ)が設定され、負担増が一定に抑えられている(注4)。他方、日本では、いわゆる「5年ルール」と「125%ルール」(注5)で返済額の上限を設定することが多いものの、その負担は将来に先送りされる。