森の中を走る男性Photo:FotoDuets//Getty Images

5. 故障のリスクを減らす

速く走ろうとすれば、力を抜いて走るよりも足や下肢(股関節・ひざ関節・足関節までの3大関節及び足指の部分)の負担が増すことになります。慣れない人がいきなり速く走ろうとすれば、足底筋膜炎、アキレス腱(けん)炎、ふくらはぎのケガなど、故障のリスクが高まるでしょう。

「スローランによって、毎週の走行距離を無理なく伸ばしながら肉体への負担を最小限に抑えつつ、故障のリスクを低下させることができる」とハート氏は述べています。なにより、「パフォーマンスの向上という点で、大きな差が生まれる」と、ハミルトン氏も指摘します。

「レースで好成績を目指すのであれば、そのための唯一の方法はトレーニングの質の向上です。そして、トレーニングの質を高めるための唯一の方法は、健康な身体を保つことなのです」とも解説します。

6. 心身の連携を高める

ランニングを楽しむ女性Photo:James Porcini//Getty Images

「ハードなランニングとイージーなランニングを交互に繰り返すことで、自分自身の肉体への理解が深まり、運動能力についてもよくわかるようになります。そのようにして培われたマインドが、レース本番の組み立てにも役立ちます」と、ハート氏は言います。

 現在、どれくらいハードなペースで走っているのか? そのペースを上げるべきか? 落とすべきか? あるいは、そのまま維持すべきか? など、自(おの)ずと判断できるようになるのです。

 当日のコンディションに合わないペース配分やレースプランにやこだわるのではなく、自分の身体の声をリアルタイムで聞きながら適応できるようになり、結果的に、より優れたランナーになるというわけです。 

【脚注】
*1:Heart Strength and Endurance Coaching 健康、フィットネス、持久力をともなうスポーツに情熱を傾ける夫婦によって2017年に設立。コーチングチームは、ハーフマラソンのPRから200マイルのウルトラマラソンのゴールライン、障害物コースレースの優勝、アドベンチャーレース、アイアンマントライアスロンなど、アスリートの目標を達成することサポートしている。
*2:Heather Hart ハート・ストレングス&エンデュアランス・コーチングの共同創立者でありウルトラマラソンのヘッドコーチとしてフルタイムで勤務。運動生理学者、公認ストレングス&コンディショニング・スペシャリスト、そして2人のティーンエイジャーの母親、そしてウルトラランナーでもある。
*3:Hear rate zone(HR zone) トレーニングの難易度を示す指標。最大心拍数でのトレーニングの強度を基準に、5つのゾーンが設定されています。Cleveland Clinicのサイト内の「Heart Rate Zones Explained」を参照。
*4:Rate of Perceived Exertion(RPE) 「身体活動を活発にするための歩き」は、自分が 「ややきつい」と感じる強さで運動すると安全に持久力を向上させることができる…このような感覚を用いる強度の指標を「自覚的運動強度」と言う。 JSPO 日本スポーツ協会の解説を参照。
*5:Running Strong あらゆる年齢のアスリートに、一流のプロフェッショナルによるコーチング、栄養、トレーニングのサポートを提供するマサチューセッツ州にあるコーチング集団。
*6:Janet Hamilton ランニング・ストロングのオーナーであり、登録臨床運動生理学者。他の人が自己ベストを達成するのを助けることに情熱を注ぎ、一人一人をきめ細かく評価し、その人特有の状況、出来事、トレーニング歴、生活習慣、ケガのパターンなどを考慮してトレーニング計画を立てることに努めている。
*7: lactate threshold 運動中に体内で生成される乳酸の量が、急激に増加し始める運動強度のこと。ランニングのパフォーマンス向上やトレーニング効果の最大化に役立つ重要な指標として知られている。「明日から役立つスポーツ科学ブログ」サイト内の東京大学 特任研究員/東京大学 陸上運動部コーチ竹井のページを参照。
*8:mitochondrion ミトコンドリアはわれわれの細胞内に存在する小さな器官であり、「細胞のエネルギー生産工場」と呼ばれています。私たちの体には約60兆個もの細胞があり、その一つ一つに数百個から数千個のミトコンドリアが存在するとのこと。その主な役割は、栄養素を分解してエネルギーを生成すること。具体的には、食事で摂取した糖や脂質を、ATPと呼ばれるエネルギー分子に変換する。ちなみにATPとは、細胞の活動に必要なエネルギー源であり、筋肉の収縮や神経伝達などさまざまな生命活動に不可欠とされる。 厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト「e-ヘルスネット」を参照。

Text by Jenny McCoy
Translation / Kazuki Kimura
Edit / Ryutaro Hayashi
※この翻訳は抄訳です。

「ゆっくり走ると速くなる」運動生理学者が教える“嘘みたいで本当”のトレーニング理論