スローランの6つの効果

海沿いをランニングする女性Photo:Image Source RF/Corey Jenkins//Getty Images

 スローペースで走ることが、どのような素晴らしいメリットをもたらすかについて、以下、順不同で挙げていきます。

1. 乳酸性作業閾値(Lactate Threshold)の上昇

 速いランナーを目指すのであれば、とにかくスピードを追い求めるべきと考えるのは論理的かつ自然なことかもしれません。ですが、スローランを続けることで、必要に応じてペースを上げるための能力が向上するという、生理学的な利点があることを覚えておくと良いでしょう。

 スローランには、ミトコンドリア密度が高める効果があることがわかっています。ミトコンドリアとは解糖系の副産物として生じる乳酸の代謝を促すことで知られる、細胞内の小器官の一つ。摂取した食糧を、運動に必要な熱量へと変換するプロセスを担っています。

 ジョージア州アトランタでランニングの指導を行うランニング・ストロング*⁵の運動生理学者でありコーチを務めるジャネット・ハミルトン(*6)氏(C.S.C.S.)は、次のように述べています。

「着目したいのは、いわゆる乳酸性作業閾値(*7)(いきち)[※編集注:乳酸が血液中に蓄積し始める運動強度を指す値のこと]です。通常、乳酸は消費量より生成量のほうが多いのです」

「スローランによってミトコンドリア密度を上げることで乳酸性作業閾値が高まり、よりハードなトレーニングに対応できるようになる」と、ハート氏は語ります。例えば、現状1マイル(約1.6km)9分のペースで走ると乳酸性作業閾値に達する(つまり、疲労してしまう)人が、1マイル8分のペースで走ることが可能になるということ。「結果的にガス欠状態に陥ることなく、より速く走ることが可能になる」と、ハミルトン氏は解説します。

ロンドンの街を走る男性たちPhoto:Ales-A//Getty Images

2. 限界値を高める

 ランナーのトレーニングと言えば、速筋繊維に頼ったスピードトレーニングが思い浮かぶかもしれませんが、「速筋繊維には有酸素でも無酸素でも運動を起こせる変換型のサブタイプ(遅筋の性質に近いタイプⅡaとタイプⅡbという2種類のサブタイプ)が存在しますが、高強度トレーニングにも持久力が求められる有酸素運動にも、この種の速筋繊維が役立ちます」と、ハミルトン氏は解説します。

 長距離のスローランで遅筋繊維の疲労が起きると速筋繊維の一部が遅筋化して、運動の維持を助けてくれるということ。この変換が十分になされることで、筋繊維を確実に鍛えられるのです。結果的に持久力が高まり、長距離を走ることが可能になります。

 ミトコンドリア(*8)には乳酸を消費するだけでなく脂肪を代謝する働きもあるため、ここでも活躍します。ランニング中の肉体は、筋肉中のグリコーゲン(グルコースや糖分の貯蔵体)を燃料にしています。ただし、グリコーゲンの供給量には限りがあるため、限界まで使い切ってしまうと運動能力の低下が起こります。長距離走の途中で力尽きてリタイアした経験のあるランナーであれば、その症状がいかに過酷かをよくご存じのことでしょう。

 しかし、体内には“脂肪”とも呼ばれる筋肉内トリグリセリド(単純脂質に属する中性脂肪の1つ)が大量に蓄えられており、これがバックアップの役割を果たします。「脂肪を効率よく燃焼できるように筋肉を鍛えることで、長距離を楽々こなすための限界値が高まる」というのが、ハミルトン氏の解説です。