1日1分、文学作品と向き合って
余計なつなぎの言葉も出にくくなる!
――でも、声のトーンやゆっくりしゃべるのは、なかなかすぐには改善しなさそうです。
改善するトレーニング方法として、日本の文学作品を読み上げる「朗読」をお勧めしています。これは40代、50代の方にも好評で、「朝礼で堂々と喋れるようになりました」「部下とのコミュニケーションがズムーズになった」といった声をたくさんいただいています。
朗読といっても、1日に何時間もひたすら読み続けるのではありません。1日たった1分間で大丈夫です。ただし、ただ読むのではなく、「ここを高く」「ここは強調したいからゆっくり」など意識して読みます。
毎日続けていると、抑揚のメカニズムがインプットされ、より相手に伝わりやすい喋り方ができるようになります。それに、しゃべり言葉ではなく文学を教材にしているので、「ええと」とか「あの」といった、余計なつなぎの言葉も出にくくなりますよ。
――ただ、聞き手にとって理想のテンポがどのくらいなのかというのは、自分では判断しにくいのではないでしょうか。
そうですね。一番いいのは、自分の朗読を録音して聞いてみることだと思います。聞き手側になってみるのです。「これでは早すぎて聞き取りにくいな」とか、「もう少し緩やかにしゃべらなければいけないな」など、さまざまな発見があるでしょう。
私も実際に朗読している様子をYouTubeで流していますし、好きな著名人などが朗読している音声と自分の朗読のスピードを比べてみるのも、判断材料になるかもしれません。
――しゃべるときの所作も大切だと思います。例えば笑いをいかに交えるか、という点についてはいかがですか。
笑いは使い方を間違えると相手を馬鹿にしているような印象を与えてしまうことがあるので、注意したいですね。先日、あるショップで言葉の要所に「あはっ」と笑いを入れる店員さんがいましたが、「なぜそこで笑うんだろう? 私、何かおかしなこと言ったかな」と思わず考えてしまいました。
こういうことは、自分では気づいていないことが多いので、なかなか難しい問題です。だからこそ、基本的には「微笑む」くらいの感覚で十分だと私は思っています。
――では、しゃべっている際の視点はどこに置くべきでしょうか。
私は相手とあえてしっかり目を合わさずにしゃべりながら、重要なポイントを話す際にじっと相手の目を見る、ということを意識しています。関係性にもよるでしょうが、ずっと視線を合わせていると怖がられてしまいますし、かといってまったく目を合わせないのも不自然です。
――最後に、朗読トレーニングを無理なく続けるコツを教えてください。
夜に行うことを私はお勧めします。朝はどうしてもバタバタしますし、落ち着いて文学作品と向き合うには、入浴後などのリラックスした時間帯がいいでしょう。仕事から離れて、ほんの1分間だけ文学作品の世界に浸ることを楽しんでいただきたいですね。
続けていれば、いい声が身に付くだけでなく、滑舌も改善されますし、改めて日本語の美しさを見直す良い機会になるはずです。何より、文学作品に触れている人は、語彙力と表現力にたけている人が多い印象を受けます。気の利いた知的な言葉や表現が口から出る人というのは、やはりすてきな大人ですよね。