63ドル
給料の再分配案を提案できるとはいえ、ぱっと見、国王の取り分はそんなに多くはできなさそうです。
なぜなら国民の賛成を得るには、国民の給料がいまよりも「増える」案を提案しなくてはならないからです。
そもそも国王は投票権を持っていないため、自分以外の33人以上の賛成を得なくてはいけません。
ただし、あることに気づけば、夢のような状況に変えられます。
国民にとっては悪夢ですが……。
どうやっても給料が上がらない国王
国王としては、なかなかつらい状況です。
現状、全国民が1ドルの給料をもらっているため、過半数の33人の賛成を得るには33人の給料を「2ドル以上」にしなくてはいけません。
しかし33人の給料を「2ドル」にすると財源の66ドルは尽きます。
そもそも、投票権がない国王が「給料が上がる側」に入る提案をすると、
「33人」の給料を下げる(1ドル→0ドル)→反対33票
となり、「賛成32:反対33」で提案は否決されます。
つまり初期状態の時点で、国王が自分の提案に賛成してもらうためには、
自分は「給料が下がる側」にならなくてはいけないのです。
つまり、こういうことです。
「32人+国王」の給料を下げる(1ドル→0ドル) →反対32票
国王が見つけた「悪知恵」
ここからがポイントです。
1回目の分配案で給料がゼロになった32人は、今後、自分の給料が上がらない限り、すべての投票を棄権します。
給料を上げない限り、存在を無視できるのです。
たとえば次に国王が、こんな分配案を提案したとします。
「16人」の給料を下げる(2ドル→0ドル)→反対16票
「32人」の給料は維持(0ドル→0ドル)→棄権32票
「国王」の給料を上げる(0ドル→15ドル)→投票権なし
1回目の分配案で給料が上がった33人のうち、過半数の17人の給料を1ドルだけ上げ、残りの16人の給料を下げる提案です。
1回目の分配案で給料が0になった32人は、今回も0にします。
そして、残りの15ドルをすべて自分の給料にします。
当然、給料が下がる16人は反対しますが、給料が上がる17人は賛成します。
こうすることで「賛成17:反対16:棄権32」となり、提案は採用され、国王は15ドルを手にします。
棄権する人を増やしてから、自分に有利な分配案を提案する。
これが、国王が編み出せる「悪知恵」です。
国王だけが最終的に得をする戦略
先ほど見たのは、国王が2回目の提案で「自分の給料を増やす案」を提案した場合です。
棄権する人がさらに増えた状態でこの「悪知恵」を発動すれば、もっと多くの給料を手にできます。
では、この手法を活用して限界まで棄権者を増やすとどうなるか、見てみましょう。
やることは簡単。
毎回、「残っている有権者の過半数の給料を上げる分配案」を提案していくだけです。
「33人」の給料を上げる(1ドル→2ドル) →賛成33票
「32人+国王」の給料を下げる(1ドル→0ドル) →反対32票
「17人」の給料を上げる(2ドル→4ドルか3ドルに)→賛成17票
「16人」の給料を下げる(2ドル→0ドル)→反対16票
「32人+国王」の給料は維持(0ドル→0ドル)→棄権32票
「9人」の給料を上げる(4ドルか3ドル→7ドルか6ドル)→賛成9票
「8人」の給料を下げる(4ドルか3ドル→0ドル)→反対8票
「48人+国王」の給料は維持(0ドル→0ドル)→棄権48票
「5人」の給料を上げる(7ドルか6ドル→13ドルか12ドル)→賛成5票
「4人」の給料を下げる(7ドルか6ドル→0ドル)→反対4票
「56人+国王」の給料は維持(0ドル→0ドル)→棄権56票
「3人」の給料を上げる(13ドルか12ドル→22ドル)→賛成3票
「2人」の給料を下げる(13ドルか12ドル→0ドル)→反対2票
「60人+国王」の給料は維持(0ドル→0ドル)→棄権60票
「2人」の給料を上げる(22ドル→33ドル)→賛成2票
「1人」の給料を下げる(22ドル→0ドル)→反対1票
「62人+国王」の給料は維持(0ドル→0ドル)→棄権62票
6回の提案で、有権者を最低2人にまで減らせました。
悪魔のような総仕上げ
ここまできたら、最後は国王の給料を上げる提案をして終わりです。
しかし残った有権者は2人なので、片方の給料を上げても過半数にはなりません。
そこで、これまで給料を0ドルにしてきた人のなかで適当な3人の給料を1ドルだけ上げてあげるのです。
すると、こうなります。
「3人」の給料を上げる(0ドル→1ドル)→賛成3票
「2人」の給料を下げる(33ドル→0ドル)→反対2票
「60人」の給料は維持(0ドル→0ドル)→棄権60票
「国王」の給料を上げる(0ドル→63ドル)
これで国王は、63ドルを手にできました。
「思考」のまとめ
投票1~6回目までは自身の給料を0にし、最後の最後で利益を取りにいく。
とんでもなく悪い国王ですが、賢い戦略ではあります。
それまで、「自分の給料を上げてくれるなら……」と、国王の提案に賛同していた人たちが、最後の最後でハシゴを外されています。
少し可哀想ですが、自分だけいい思いをして他者を顧みないとしっぺ返しにあうという教訓も感じられますね。
この問題はスウェーデンにあるリンケピング大学のヨハン・ウェストルンド氏が考案したものです。
現実世界でも起こりえそうな状況だなと思っていたら、どうやら過去にスウェーデンで実際に起きた出来事とちょっと関係があるとか。
短期的な得だけに目を向けていると、結果的には損をする可能性があるという教訓を感じますね。
・思考の主体や時間軸をズラして考えられると「最後に得する」という選択肢も考えられるようになる
(本稿は、『頭のいい人だけが解ける論理的思考問題』から一部抜粋した内容です。)
都内上場企業のWebマーケター。論理的思考問題を紹介する国内有数のブログ「明日は未来だ!」運営者
ブログの最高月間PVは70万超。解説のわかりやすさに定評があり、多くの企業、教育機関、テレビ局などから「ブログの内容を使わせてほしい」と連絡を受ける。29歳までフリーター生活をしていたが、同ブログがきっかけとなり広告代理店に入社。論理的思考問題で培った思考力を駆使してWebマーケティングを展開し、1日のWeb広告収入として当時は前例のなかった粗利1,500万円を達成するなど活躍。3年間で個人利益1億円を上げた後、フリーランスとなり、企業のデジタル集客、市場分析、ターゲット設定、広告の制作や運用、セミナー主催など、マーケティング全般を支援する。2023年に現在の会社に入社。Webマーケティングに加えて新規事業開発にも携わりながら、成果を出している。本書が初の著書となる。