いつでもどこでもわかりにくい条文
70年の時を経てわずかに一歩進む

 まず、であるが、法律というのはいかにもややこしい佇まいである。たとえば口座管理法を例にとって言うと、より正確には「令和三年法律第三十九号 預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律」という名称であり、「口座管理法」の名は、その内容を説明する条文の第十一条でやっと出てきて、おのれをそう定義している。

 当然、つらつらと綴られる条文も例によって複雑怪奇であり、それを示すために第一条をここに転載してみようかと考えたが、ひとつの句点が出てくるまで243字という長大な一文だったので、種々の事情を鑑みて断念した(読者諸氏への嫌がらせとなる恐れや、「法律をコピペして字数を稼ぐのも悪くない」とささやく内なる悪魔との葛藤)。

 余談だが、法律などの文書の読みにくさは世界共通らしく、その理由を分析したマサチューセッツ工科大学の研究が2022年のイグノーベル賞(ノーベル賞のパロディで、ユーモアがあり示唆に富む研究に贈られる賞)を受賞している。そこで指摘された”わかりにくさ”の主な理由は「非日常的な専門用語」や「文中に挿入される、言葉の定義を説明する文章」などの存在であった。

 なお日本では公文書の書き方のフォーマットは「くぎり符号の使ひ方」(昭和21年 文部省)や「公用文改善の趣旨徹底について」(昭和27年 内閣官房長官)などがガイドライン的に参考にされているようである。はるか昔のものであり、どうしたものかというところだが、これについては約70年の時を経て進歩があった。

 令和4年、「公用文作成の考え方(建議)」なるものが文化審議会から発表されたのである。

 ここで目指されたのは「読み手にわかりやすく」であり、具体的には「横書きでは漢数字ではなく算用数字を(例:二十一→21)」や「読点には『、』を」などが提議された(それまでの公文書の読点は英語ふうにカンマ「,」だった)。この新時代の建議を受けて、いくつかの公文書ではこれらが取り入れられているようである。