インドが警戒する世界経済の不確定要素

 23年、中国は金の購入量でインドを上回ったようだ。また、主要先進国でもインフレヘッジのため金を選好する投資家が増えた。そうした動きがこの4月、金の先物価格が史上最高値を更新したことにつながったとみられる。

「金」先物が2400ドル突破!中国・インドが爆買い「近い将来、4000ドルに上昇」強気予測もインドでは宝飾用に金を使うことが多い Photo:PIXTA

 直近で、インドは一段と金の保有を進めているようだ。準備銀行(中央銀行)のダス総裁は4月、外貨準備の強化を重視する姿勢を明らかにしている。現在、インド経済は好調だ。中国から生産拠点の移転が増加していることなど、直接投資が増えているからだ。中国株を売り、インド株を買う世界の投資家も多い。

 また、制裁対象であるロシア産原油の購入も、インドの景気を支えた。夏場の気温上昇で農作物の生育不順が起きるリスクはあるが、過去に比べればインドのインフレ耐性は強くなったとの見方もある。

 それでも、ダス総裁は外貨準備を増強する考えを強調した。背景には、世界経済への強い警戒感があるのだろう。ウクライナ紛争や、中東でイスラエルとハマスの戦闘が継続していることなど地政学リスクは上昇している。

 また、親イラン武装組織フーシ派による攻撃で、紅海およびスエズ運河でのタンカー航行が難しくなっている。イランは4月、世界の原油供給の2割を占めるペルシャ湾のホルムズ海峡を封鎖すると警告した。これが現実のものになると、世界経済へのマイナス影響は計り知れない。

 他方、米国の物価上昇率は経済の専門家たちの予想を上回った。米国では労働市場がタイトであり、賃金は高止まりし、個人消費も増勢を保っている。企業は価格転嫁、つまり値上げを強化した。1~3月期、食品・エネルギーを除いた個人消費支出の価格指数が前期比年率で3.7%上昇した。

 米FRBの利下げ開始の予想時期は後ろ倒ししそうだ。米金利は上昇しドル高も鮮明化している。一方、新興国の外貨準備高はドル高で目減りする。自国通貨の減価は輸入物価押し上げリスクの上昇につながる。そうした動きを警戒し、インド準備銀行は金保有を重視し始めたのだろう。