今後も金価格がさらに上昇する可能性
短期的には、金価格上昇による利益確定は増え、相場は幾分か調整するかもしれない。ただ、少し長い目で見ると、金の価格はさらに上昇する余地がありそうだ。世界経済を取り巻く不確定要素は増大する可能性が高いと考えられるからだ。
中東に和平がもたらされるかは非常に推測しにくい。これまでも、イスラエルのネタニヤフ首相はイランなどへの強硬姿勢を強め政権を維持してきた。イスラエルとイランの緊張感はさらに高まり、地政学リスクが上昇する恐れはある。中東情勢の緊迫感が増すと、原油価格は上昇し、世界的にインフレ懸念が高まるだろう。今すぐではないにせよ、金利上昇によって米国の景気は減速し、世界経済の先行きへの不安が高まるはずだ。
半年後に迫った11月の米大統領選挙で、仮にトランプ前大統領が再び当選すると、不確定要素はさらに増えるかもしれない。一つのシナリオとして、米国がイスラエル寄りの政策を強化したとしよう。すると、欧州諸国と安全保障面での足並みが乱れ、ウクライナ紛争の先行き不透明感が高まるはずだ。
一方、バイデン大統領の下で民主党政権が続いた場合も、米中対立は先鋭化するだろう。状況次第では世界のサプライチェーンが不安定になる恐れもある。インフラ投資などで連邦政府の財政支出が増え、米国債の信用格付けの引き下げが懸念されることになるかもしれない。
地政学リスク、インフレ懸念が再燃するなど経済のリスク、政治リスク、これら3つの要素は互いに影響し世界経済の不安定感を高める。これだけのリスク要因を抱える世界経済は、「1929年の“大恐慌”、1971年の“ニクソン・ショック”(米国の金本位制放棄、輸入品に10%の関税賦課)前に似ている」との指摘もある。
中国やインドの中央銀行にとって、金の保有割合を増やす重要性は追加的に高まりそうだ。リスクヘッジのため金保有を増やす主要先進国の投資家も増えるだろう。一部で、「近い将来、金の価格が4000ドルに上昇する」との予想もある。時間の経過に伴って調整を挟みつつ、徐々に金の価格水準は切り上がる可能性が高いだろう。