シン・稲盛和夫論Photo:Koichi Kamoshida/gettyimages

連載『シン・稲盛和夫論』の前回の記事『【初公開】JAL再建の重要内部資料で学ぶ!稲盛和夫流“スパルタ”副官育成術とは?』では、経営破綻した日本航空(JAL)の復活で肝となった「意識改革」を巡る秘話を、重要内部資料と共に明かした。本稿ではその続編として、再建を担った稲盛和夫氏が社内向け勉強会のために準備した草稿2点を開陳。さらに、改革が軌道に乗ってきた2011年6月の株主総会当日、稲盛氏が「私の副官」と呼び実務を一任してきた大田氏に渡した、直筆のメモも初公開する。そこには「不燃性の人は居ないのではないか」などとつづられ、従来の自説を覆すかのような“変心”の跡が垣間見える。(ダイヤモンド編集部 竹田幸平)

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再建繁忙期に1カ月で17回
短期集中の意識改革を断行

「京セラから応援は出さない。お前ひとりでやれ」――。2010年1月に日本航空(JAL)が経営破綻後、再建を担った稲盛和夫氏が肝と位置付けた「意識改革担当」を一任されたのが、長年参謀役を務めてきた大田嘉仁氏(元京セラ常務秘書室長、元JAL会長補佐・専務執行役員)。大田氏は同年2月に稲盛会長(当時)の補佐へ着任後、意識改革の基本計画を練り上げて了解を得たものの、人員に関しては冒頭のように突き放され、愕然(がくぜん)としたという。

 何しろ、前回記事(『【初公開】JAL再建の重要内部資料で学ぶ!稲盛和夫流“スパルタ”副官育成術とは?』参照)でも述べた通り、稲盛氏は独自の経営管理手法「アメーバ経営」導入に先立ち、社員の一体感を醸成するような意識改革が不可欠と考えたわけだが、大田氏には社員教育のノウハウもなければ、JAL社内に知り合いすらいない。

 しかも、アメーバ経営に関しては、稲盛氏が創業した京セラの子会社から20人ほどの応援部隊が派遣されるという。意識改革でも当然、同様の援軍が得られると考えていただけに、落胆を隠せなかった。10年5月に「意識改革推進準備室」が発足したものの、当初メンバーはJALの社員と大田氏を含むたったの6人。そこから、グループ約3万2000人の意識改革を断行する異例の挑戦が始動した。

 先に結論を言えば、稲盛氏の“むちゃぶり”は奏功したといえる。詳細は後述するが、1回当たり約2~3時間の「リーダー教育」を1カ月で17回実施するという、実学重視の徹底的な短期集中プログラムが意識改革に寄与。JALが業績的にも、再び飛躍するための端緒となったのは間違いないからだ。

 稲盛氏は入念な準備を重ねる裏返しとして、社内向け講演は頼まれてもほとんど受けなかったというが、次ページでは、JALのリーダー勉強会での講話に向けて準備した、直筆の草稿2点を開陳する。

 さらに、改革が軌道に乗ってきた11年6月の株主総会当日、JAL改革を通じた自身の気付きや思いをつづり、「副官」と呼んで実務を一任してきた大田氏に渡した、手書きメモも初公開する。そこには「不燃性の人は居ないのではないか」などとつづられている。

 稲盛氏は生前、長らく人間のタイプには火を近づけると燃え上がる「可燃性」の人、火を近づけても燃えない「不燃性」の人、自分でカッカと燃え上がる「自燃性(じねんせい)」の人がいるとの持論を持っていた。それが、この手書きメモには、従来の自説を覆すかのような“変心”の跡が垣間見えるのだ。一体、どのような内容なのだろうか。