戦後最大規模の経営破綻に至った日本航空(JAL)を、“奇跡”と呼ばれる再生に導いた故・稲盛和夫氏。連載『シン・稲盛和夫論』の本稿では、JAL再建と稲盛氏を巡る最終回として、日の丸航空の低落から大復活までを内部から目の当たりにしてきた当事者の証言を通じ、独自の経営哲学「稲盛イズム」がいかに社内へ浸透していったのかを明らかに。その考え方に魅了され、“伝道師”などと称されてきた、藤田直志・JAL元副社長(現日本体操協会会長)が語った知られざるエピソードなどを基にひもとく。(ダイヤモンド編集部 竹田幸平)
“稲盛イズムの伝道師”は
いかに哲学を実践してきたか
「稲盛式経営の根幹は、『実学』にあると思っている」。こう話すのは、日本航空(JAL)が経営破綻から再建後、代表取締役副社長や取締役副会長、特別理事を務め、時に“稲盛イズムの伝道師”とも称されるほど稲盛哲学の実践や普及に取り組んできた藤田直志氏(現日本体操協会会長)だ。
「フィロソフィ」や「燃える闘魂」など、稲盛式経営を語る上で欠かせないキーワードはいくつもあるが、世間一般ではややもすると、「精神論」「宗教じみている」などと誤解を受けることも。だが、大企業経営陣の一員としてその体現を目指してきた藤田氏は、稲盛イズムの神髄は「実践」にあり、哲学を経営や現場で生かしてこそ意味を成すと考える。実際、技術者出身の稲盛氏は生前、単純な精神論や根性論には否定的だったとされる。
藤田氏は2010年初頭のJAL破綻後、再建の肝となった同年6月の「リーダー教育」時は執行役員(旅客営業本部長)として、社長以下約50人を対象とした受講者の一人だった。そして、教えに深く共感した同氏は、いつしか自身が「経営陣と現場の社員をつなぐブリッジ役になろう」と決意。稲盛氏が退任後も、JAL再建の過程で新たに策定された「JALフィロソフィ」の社内への浸透などを図ってきた。
次ページでは、JAL再建を巡り、前回記事(『【独自】「JALの奇跡」で稲盛和夫の手書きメモに“変心”の跡?社内向け講演の草稿も初公開!』参照)で描いた再建策の他にも、再飛躍に不可欠だった“地獄”の「業績報告会」や、JALの「フィロソフィ」策定に焦点を当てる。業績報告会に関しては、これまで明らかにされてこなかった「六つの目的」の文面もメディア初公開する。
そして藤田氏や、意識改革担当チームの当初メンバーだった社員らの証言に着目。破綻から再生までの変遷を目の当たりにしてきた元幹部や現場社員らが語る、知られざるエピソードなどを通じて、史上まれに見る「稲盛式」大改革の仕組みを新たな視点で浮き彫りにする。